第十二話 足掻く者は救われるか否か

 俺のクラスは天魔召喚士とのことだ。

 役立たずのクラスの刻印を押されたが、勝手に決めつけられるのは腹立たしい。

 召喚魔法の勉強もしたいところだが、その前に目の前にいるストーンマスターを倒さなくてはならない。

 最も、今の俺に戦う力はないので、ミキナ頼みになってしまうのだが……。


「魔法の杖がなくても、魔法って使えるんだね」

「そうみたいだな……」


 答えながらも俺達はオオイシへと目線を向ける。

 奴の周囲には大小様々な石が集まり、それらが邪魔をして容易に近づけない。


「何だ、何を企んで――」


 今の所、奴は岩やら石で自分の身を守っているだけだ。

 だが、奴は俺とミキナをここで始末するつもりらしい。

 もしやと思い、彼が唱え続けている言葉に耳を傾けると――。


「岩よ、我が、肉となり、絶対な――となれ、ん?」


 何を意味しているのかと思ったが、もしかするともしかするかもしれない。


「ミキナ! あいつは岩を集めて、それを鎧にしようとしている!」

「え? それは、マズいかも」

「もう遅い!」


 オオイシの叫びと共に、周囲の小さな石や砂が次々に奴へと取り込まれていく。

 そして、奴を中心にどんどん膨れ上がっていき、あたかも巨大な着ぐるみを着込んでいるかのようだ。


「な……」


 俺が唖然としていると、その横でミキナが銃を構えていた。

 彼女が手にしていたのは、もう子どもの玩具ではなかった。

 大型の拳銃を握りしめており、どうやらヴァルカンとやらで呼び出したようだ。


「容赦はしないから――!」


 ミキナはオオイシへ向けて射撃を敢行かんこうする。

 大口径の拳銃から放たれる銃弾は鈍い音を立てながらも奴の岩の鎧を撃ち抜く。

 だが、奴に損傷を与えることは出来なかったようだ。

 

「そんな豆鉄砲なぞ効かぬぞ!」


 ふと、オオイシの口元から血が流れていることに気がついた。

 銃弾による負傷にしては不自然だ。


「ん?」


 地中から次々と姿を現してくる数々の岩――。

 それらを取り込んでいくことで、オオイシの鎧は段々と膨れ上がっていく。

 雪だるま式に膨れ上がるというのはこんな感じなのだろうか。

 全長3mが5mとなり、今は8m程だろうか――。


「ミキナ、ど、どうする?」


 ミキナに目線を向けてから、俺は自分の情けなさを自覚してしまう。

 折角転生したのに、これでは前世と変わらないじゃないか。


「あんなに大きいと、バズーカ砲とか、ミサイルランチャーも効かないかも」

「そんな……」


 しかし、ミキナは弱音を吐いている訳ではないようだ。

 ただじっとオオイシを注視し、奴の弱点を見つけようとしている。


「さあ! 踏み潰してくれようぞ!」


 オオイシの叫び声が微かに聞こえてくる。

 全長何mあるのだろうか。

 すでに鎧という次元ではない。

 オオイシは岩の巨人と化していた。

 顔面は奴の顔にそっくりだが、その他の部分は子どもの作った泥人形のように味気ない。


「おいおい……」


 子どもの頃に見た特撮を思い出す。

 古い作品をリメイクしたものだったか。

 正義の巨人が宇宙生物と戦うというものだ。

 巨大な者同士が戦うという構図には胸がワクワクしたものだ。

 それと比べると、今の状況は少しもワクワク出来ない。

 一方的に踏み潰される虫の気分である上に、巨人役にセンスの欠片もないからだ。


「ゆくぞっ!」


 オオイシは大きく片足を上げた。

 迫り来る岩のプレス機を見上げながらも、俺とミキナは急いで走った。


「あんなにデカくなるとは……」

「本気なんだね」

「ああ……。――っと!?」


 間一髪で踏み潰しから逃れるも、オオイシの足が放つ衝撃は凄まじかった。

 地面が揺れたせいで、体勢が大きく崩れる。


「大丈夫?」

「ああ、なんとか」


 間抜けな姿勢ですっ転ぶそうになりながらも、何とかミキナへと返答する。

 心臓がバクバクと悲鳴を上げ、今すぐにでも逃げ出したいと懸命に抗議をしてくる。

 前世の俺だったら、尻尾を巻いて逃亡を試みただろう。

 だが、今の俺はまだまだ諦めないという根気があった。

 すると、ミキナが俺を見て微笑んだ。

 まるで、俺の頑張りを汲み取ってくれたかのように。

 

「大丈夫、私は負けないから」

「ミキナ――。勝算はあるのか?」

「うん。私も、少し本気を出すから」

「え?」

 

 俺の戸惑いを余所に、少女は天を仰ぐ。

 そして、小さくこう呟くのだった。


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