魔物討伐 7

 ケツァルコアトル――


 それは、翼の生えた蛇の魔物だ。

 討伐難易度はグリフォンを超えるSランク。

 その昔、とある国では神としてあがめられていた、個体数の少ない伝説の魔物である。

 グリフォン以上に、普通に生活していたら遭遇するはずもない魔物だった。


 ……いやいやいや、意味がわかんないから! Sランクとか、お母様でも無理よ‼


 わたしは茫然としそうになったが、今はそれどころではない。

 いくらなんでもグリフォン二体を相手にするのは危険だ。早くフェヴァン様に加勢しなければ、彼の元に二体が向かってしまう。

 お父様の周りには結界を張ったから、グリフォンの攻撃の直撃を食らわない限りは大丈夫のはずだ。


 わたしはフェヴァン様と反対方向に向かって走りながら、風の魔術を練り上げる。

 魔術の気配がすれば、危険だと察知してグリフォンの方からこちらへ向かって来るだろう。

 案の定、フェヴァン様に向かっていた二体のうち、一体が弾かれた様にわたしの方へ向かって来た。


 グリフォンは風系統の魔物だから、風の魔術はききにくい。

 しかしこの場で火属性の魔術を使えば大惨事になりそうだし、土の魔術は風属性相手だと威力が半減する。水の魔術はもっと相性が悪い。

 ならば同系統の風魔術で対処するしかない。


 わたしがカマイタチを放てば、グリフォンも同系統の風の刃を放ってくる。

 攻撃が相殺し、グリフォンが警戒したようにその金色の瞳をすがめた。

 高く鳴いて、グリフォンが空に舞い上がる。

 距離を取って攻撃することにしたようだが、わたしからすれば好都合だった。

 相手が空にいるなら、大規模なものでなければ火の魔術も使える。


 わたしはグリフォンが地上に降りてくる前に決着をつけようと急いで火の魔術を練り上げた。

 そして、一気に放つ。

 わたしの放った火球がグリフォンに命中し、甲高い声が響いた。

 その、直後――


「アドリーヌ‼」


 わたしの火球で羽を焼かれたグリフォンが、怒り狂って空から真っ逆さまに滑空してきた。

 フェヴァン様の切羽詰まった声がして、わたしとグリフォンの間に身を滑り込ませた彼が、大きく剣を振りかぶる。

 斬撃が光のように輝いて、直撃を食らったグリフォンが後方に吹き飛ばされた。


「……よかった、間に合った」


 振り返ったフェヴァン様が、ホッと息を吐いてから笑う。

 見れば、フェヴァン様が相手をしていたグリフォンはすでに討伐されていて、わたしが相手をしていたほうも、先ほどの一撃が止めだったようだ。


 ……わたしの方が、足手まといだったようね。


 フェヴァン様がこれほど強いとは思わなかった。

 まあ、ケツァルコアトルを討伐したことがあるのだから当然と言えば当然か。

 いったいどこでそのような最上位の魔物とであったのかは聞いてみたいところだが、今はそれどころではないだろう。

 グリフォンが討伐されたとなれば、身を潜めていた魔物たちも動きはじめる。

 目的の月歌草と……、グリフォンをこのまま放置しておくのはもったいなさすぎるので、これらを回収して邸に戻った方がよさそうだ。


 ……グリフォン二体の死体なんて持って帰ったらお母様……はいいとして、使用人のみんなが悲鳴を上げそうだけどね。


 お父様の周りの結界を解けば、一目散にわたしの元に走って来て、怪我はないかと騒ぎ出す。


 わたしはお父様をなだめで、月歌草の素材を採取すると、巨大なグリフォンの死体を風の魔術で宙に浮かせて、お母様の待つ邸に帰ることにした。



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