魔物討伐 5

 お父様はテントを張った地点から歩いて十分ほどの場所にいた。

 転移魔法で邸に素材を送って革袋を空にしたはずなのに、お父様と合流したときはすっかり革袋がパンパンになっていた。あきれてものも言えない。


「お父様が多少の魔術は使えるのは知っていますけど、一人でうろうろしたら危ないじゃないですか! まったく、近くで採取するって約束したでしょう⁉ お母様に報告して、当分の間、素材採取禁止にしてもらいますからね‼」

「う、ごめん……。だからそれは勘弁して……」


 腰に手を当ててお父様を叱りつけると、お父様はしょんぼりと小さくなる。

 カッカと怒るわたしに、フェヴァン様は目を丸くした後でくすくすと笑いだした。

 じろりと睨むと、彼は両手を上げて降参のポーズを取る。


「ごめん。怒る君が可愛くてつい」

「ふざけないでください!」

「ふざけてないよ。怒っている君は、瞳がきらきらとしてとても可愛い」

「う……」


 フェヴァン様のせいですっかり毒気が抜けてしまって、わたしははあと息を吐いた。

 お父様が「フェヴァン君でかした」なんて言って感動しているけど、帰ったらお母様にチクってやるんだから覚えてなさいよお父様‼


「それじゃあ月歌草を探しに行こう!」


 全然反省していないお父様が、意気揚々と出発する。

 夜になると活発になる魔物も多いため、周囲には注意が必要だ。


「月歌草は月の光が差し込む場所に生息しているから、こっちだと思うよ。もう少し行った先に開けた場所があるからね!」


 そういう場所は、動物型の魔物もよく休憩場所に使っていたりするものなのだが……、お父様は気にしていなさそうね。


「フェヴァン様」

「うん、わかっているよ。いつ襲われてもいいように、注意を怠らないようにしないとね」

「父がすみません……」


 目的が月歌草である以上、止めたところで止まるまい。さっさと討伐して素材を回収後、速やかに帰途に就くしかないだろう。

 お父様を追いかけていくと、お父様がいう通り丸く開けた草原に出た。この森をこれほど奥に進んだことはなかったので、わたしははじめて目にする場所であるが、お父様は何度か来たことがあるのだろう。足に迷いはない。


「じゃあ、さっそ――」

「カンブリーヴ伯爵、止まってください!」


 お父様が森から草原の中に入ろうとしたときだった。

 フェヴァン様が鋭い声を上げて、わたしはハッとした。

 草原を抜けた反対側の森の中に、何かいる。


 ……そういえば、秋の森にしては獣型の魔物とまったく遭遇しなかったわ。


 そういうことか、とわたしは草原を挟んで反対側の森に注意を向けたまま、たらりと冷や汗をかいた。


「お父様、下がって。あれはお父様じゃ無理よ……」


 お父様も気づいたのだろう、大きく目を見開いて、ごくりと喉を嚥下させた。

 フェヴァン様が、固い声で言った。


「グリフォンだ。しかも……番の」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る