第7話 指差し確認
毎晩、夢で兄に会う。ぼくが出逢ったことのない兄、ぼくが生まれる前にこの世を去ったという兄に。
彼には形がない。だから、いつもぼくのことを羨んでいるのだ。
「お前はおれの弟だろう。兄に『それ』を譲ろうという気はないのか」
兄の声だけが夢の中に響き、ぼくは『それ』がぼく自身を指していることを理解する。ぼくが首を振ると、兄の声は執拗に繰り返し、だんだん脅しめいたものになってゆく。けれど、ぼくは首を縦には振らない。兄がぼくに何もできやしないことも、理解しているのだ。
やがて現実世界に夜明けが近づくと、兄の声は弱々しく、あわれっぽくなる。初めの威勢は消え失せ、ぼくの情けを乞うようになる。
「おれを気の毒と思うなら、せめて分けてくれよ。余分なパーツがいくつもあるだろう。ふたつずつ備わっている体のパーツの、その片方だけでいいんだ、なあ、」
夢が終わりかけるので、ぼくの夢の記憶はいつもそこで途切れる。だから毎朝、いやな汗をかいて飛び起きるのだ。
一瞬でも彼に同情して、ふたつあるパーツのひとつずつを失っていやしないだろうかと、体中を確認せずにはいられないのだ。
お題「ふたつ」
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