21. 自分だけの島 2
最近の僕は、魔法の練習に明け暮れていた。
最近どころか、ずっと前からだけどね。
向こうで頑張ってるクララに追いつくため、僕だって負けてられない。
もともと僕は、魔法の威力に至っては自信があった。
そんな中で最も重要な課題は、精度の悪さだ。
これはどうにかしないといけないよね。
そこで活躍するのが、木属性の魔法。
これを利用することで、動く的を作れるんだ。
その程度の簡単な魔法なら、木属性が得意じゃない僕でも出来る。
学び舎で学ぶレベルの、誰でも出来る魔法だね。
この練習のおかげで、動きを予測しながら当てれるようになってきた。
着実に成長している気がする。
これならクララにも追いつけるかな…?
うんん。
そんな簡単な話じゃない。
きっと彼女は、もっと高いところに居ると思う。
置いて行かれないように、僕も頑張らなきゃ。
そうして、僕は日が高く登る頃まで練習を頑張った。
そうして、へとへとになりながら木陰へと倒れ込む。
「うわぁ…疲れたぁ…もう無理ぃ…」
休憩だ。
鞄からお菓子を取り出して、至福の時間を送ろうとした。
その時。
ガサッ!!
近くの茂みが、一瞬揺れた気がする。
「誰!?」
僕は気だるい体を起こし、そちらに目を向ける。
すると、一瞬フードのような物が視界に入ったきがする。
でもそれは再びどこかへと消え去って、また見えなくなってしまった。
「…はぁ。 またかぁ」
僕は多少の不安を覚えつつも、また木陰に戻った。
実を言うと、学び舎に通っている頃から、誰かに見られてる感覚が付きまとっていた。
無人島に居てもそれは変わらず、誰かが僕をずっと見ているような感覚がある。
へんなの。
気のせいなら良いんだけど。
…。
…。
…。
ベチベチ。
「マリン~」
誰かに、顔を叩かれる感覚。
僕は、うつらうつらしながら目を開けた。
すると目の前には、綺麗な顔立ちの少女が立っていた。
「マリン。 起きるの!」
「…ぁぇ?」
「んもう、寝てるじゃん! 練習頑張ってると思ってたのに…」
「…あ。 ユワル!」
「うんうん。 ユワルちゃんですよ」
どうやら僕は、疲れ果てて眠っていたらしい。
そこを丁度、様子を見に来たユワルに発見されたんだ。
「そろそろお昼の時間だよ」
「…あぁ。 そんな時間まで…僕ねてたんだ…」
「このねぼすけ」
「…否定出来ないのが切ないなぁ」
最近はフワリが来たり、ユワルが来たり、2人一緒に来たりするのが日常になってきた。
毎日どちらか1人は、必ず来てくれるんだ。
大変だろうし、無理しなくていいよって僕は言ってるんだけどね。
でも一日もかかさず、この場所に来てくれるんだ。
そうやって僕の練習に付き添ってくれる。
まぁ、ユワルは自由にしてる事が多いけど。
そのまま2人並んで、木陰で昼食を食べる。
「このサンドイッチ、ユワルが作ったの?」
「逆に聞くけど、私に作れると思うの?」
「無理そう」
「なんだか悔しいので、私が作った事になりました」
「なんたる暴挙」
ユワルはサンドイッチをもぐもぐ食べながら、ちょっとむすっとした。
しかしそんな感情もすぐ忘れ、僕の顔を見た。
「ねね、マリン。 魔法の練習はどのくらい進んだの?」
「それなりにかなぁ」
「んもう、はっきりしてよ! 成長したの? してないの? 二択で答えるんだよ!」
「成長したと思う!」
「ふふふ~。 じゃあ見せてもらおうか~」
「うん! もちろん!」
僕は手に持っていた残りのサンドイッチを口に放り込むと、立ち上がった。
そして、いつものように海へと向き直る。
しかし、ユワルはそれを見て首を横に振った。
「マリン、違うの」
「違う…?」
「うん、違う! だって海じゃつまらなくない?」
「確かに。 いつもと変わらないよね」
「そ! せっかくならさ、あの山に向けて撃ってみるんだよ!」
彼女はそう言うと、無人島にそびえる小高い山を指さした。
すごく急で、先端は尖がった形をしてる。
少し離れた位置にあるけど、的が大きい分、十分届くと思う。
「いつも海だと成長が見えないでしょ?」
「それは一理あるなぁ」
「ほら、やってよ! 私にいいとこ見せて!」
「うん! ちゃんと見てて!」
僕は彼女に宣言すると、さっそく海から水を引っ張り出した。
手加減はしない。
今の僕が出来る、最大限の力をぶつける…!
ゴゴゴ…!
鈍い海の音が鳴り響く。
それはやがて大きな球体となって、宙に浮かび上がった。
それを。
ガチガチガチガチガチガチ……。
鋭く鋭く、固め込む。
円形よりも鋭い形の方がよく飛ぶんだって、最近の練習で気が付いたんだ。
やがて僕の目の前には、巨大な氷の槍が形成された。
「…すごいね。 なんだか芸術的なんだよ」
「まだまだこれから! 見てて」
凝った事はしない。
僕はただその槍を、力の限りぶっぱなす!
パアンッ!!!
確かに感じる衝撃波。
槍は空気を切り裂き、山をつんざいた。
弾け飛ぶ土砂、岩石。
山は一瞬にして、土煙の中へと雲隠れした。
僕とユワルは、山を緊張しながら見守る。
ゆっくり、ゆっくりと散っていく煙たち。
やがて、その全貌が露わになった。
そこには三日月のような形に変貌を遂げた、山がそびえたっていた!
想像以上の威力に、自分でも驚いて声が出ない。
しかし、ユワルははしゃいでいた!
「すごいよ! やるじゃんマリン! 今回の君は強いんだね!」
「…これ…僕がやったの…?」
「うんうん! 私、ちゃんと見てたよ!」
ユワルは満足な様子だった。
それを僕に伝えようと、身振り手振り表現する。
「何かすごくいっぱいすごい感じ! えーと…。 こんな風で…」
「全然伝わってこないよぅ」
「伝えなくていいくらい凄いの! こんな威力、他の属性じゃ真似できないと思う!」
「ほんと!?」
「うん! ほんとほんと!」
「やったー!」
僕は遅れて、喜びがやってくる。
そしてユワルと一緒になって、喜びを分かち合った!
それでも、ふとした瞬間に嫌な考えが頭をよぎる。
…そう。
やりすぎた!!
山に風穴開けるなんて、どう考えてもダメだよね!?
「僕…怒られないかな?」
「怒られたいの? いま私、杖持ってるけど叩こうか?」
「遠慮しておきます…。 でもちょっとやり過ぎたかなって」
「ふふふ~。 バレなければ大丈夫!」
「なんて都合の良い言葉」
それから。
山の事に飽きたらず、僕らは練習を続けた。
あまり破壊するのも良くないので、もちろん海に向けての練習だ。
ユワルはと言うと…。
「っふん! っふん!」
「あの…ユワルさん? 何しているのでしょうか?」
「見てわからないの? 素振りだよ!」
「杖で?」
「うん! 私、あんまり魔法使えないから。 だから杖で殴るの!」
「杖で!?」
「何か文句あるんですか?」
「文句はあるけど言いません」
「賢明な判断だよ。 褒めて差し上げましょう」
それからも僕らは、各々の練習をする。
ちなみにユワルは、あんまり体力がないらしい。
数回だけ杖を振ったら、すぐに休憩しちゃう。
それでまた素振りに戻ったかと思えば、また休憩。
これじゃ杖の練習じゃなくて、休憩の練習だよね。
そのくせ、僕が休憩してたら怒ってくるんだ。
んもう!
気づけば、夕方を迎えていた。
夕陽が僕らの顔を、明るく染める。
「よし、終わり!早めに帰えろっか、マリン」
「うん、そうだね」
僕らは2人で、荷物をまとめあげた。
その時、彼女は何かを思い出したようにこちらを見た。
「そういえばマリン」
「なあに?」
「明日は、森の前に集合だよ。 フワリが言ってた」
「森の前に集合?」
「うん。 試験だってさ」
「試験かぁ…」
森といば、あの場所しか思い浮かばない。
それは、魔物の出没する禁足地。
そんな場所で試験だなんて、何をするかは一目瞭然だった。
「ね。 ユワルも来てくれるの?」
「んーん。 私は用事です」
「それなら良かった。 たぶん危ないと思うから、来ない方がいいかも」
「そうなの? 私には良く分からないけど、頑張ってねマリン」
「うん、頑張るよ!」
僕は顔では平静を装っていたけれど、内心は今にも振るえそうだった。
あの時に負ったトラウマ。
それが、今でも鮮明に思い出せる。
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