第一食:食の村
山道に揺られた馬車の窓から見たのは長閑な風景だった。
右手に見えるのは蜜が詰まった雫形の林檎である
左手に見えるのは反射する体表で川底の風景に溶け込む魚である
その向こうの丘に見えるのは二本の角を持つ巨猪である
そんな光景を見れる馬車はこれほどにもない特等席である。そんな席にいる金髪のポニーテールと銀色の瞳、少し膨らんだ胸を持つ少女、『メリゼ・マイケル』は緊張とした表情を持っていた。
それに対し、向かい席に座っていた黒髪と紫の瞳を持つタキシードの長身男性、『フランベル・ベイキンソン』はニヤリとシルクハットの奥で笑いながら、彼女の次第を見守った。
打って変わって、トヨツキ村にある大きな木造建築の食堂では農家や川漁師、大工に彼らの家族、果てには暇を持て余した村人まで素気無く訪れていた。
全ては彼の料理を食べる為。
その彼とは厨房で焜炉の上に置いてある鍋のスープを味見したり、スタッフに近づいて、まな板で切る食材を指示したりとその場所を縦横無尽に駆け巡った。
茶髪と黒い瞳を持つこの少年は『イヅナ・イワムツカリ』で、年少ながらも、この食堂の料理長をしている。
「イヅナ兄! こっちの配膳は終わったよ! 次はどれを運ぶ?」
「この豆のポタージュを向かいの裁縫屋のお婆さんに渡して。食べさせる前に息で冷まして。」
「了解!」
「イヅナお兄ちゃん! 次はどれを切るの?」
「この森トマトを角切りにして、サラダに使うから。」
「分かった!」
他の従業員が食堂を元々営む夫婦以外はその看板娘を含む子供たちであり、皆、料理や配膳を楽しみながら、真心を込めて、客と接している。
「イヅナくん! お客さんが二名追加よ! 遠方から来た人みたいだけど?」
彼の前に長い桃髪をたなびかせ、赤い瞳を輝かせ、赤と白のメイド服を着た看板娘『ソフィー・テオドアール』が新たな指示を仰ぐ。
「分かりました! 接客をお願いします!」
「ふふふ、相変わらず頼もしくて、可愛いんだから。」
「すみません、何か言いましたか?」
「大丈夫よ、お姉ちゃんに任せなさい!」
童顔の少年料理長に唯一勝る身長と胸を誇らせ、年長風を吹かせた彼女は遠方の客の前に立つ。
先程、馬車に乗った紳士と少女に。
「ご注文はいかがですか?」
「味に自信があるものをお願いします。」
ロストレシピ〜幻想異世界最強料理人決定戦〜 @kandoukei
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