第9話 楽しみって何?

カフェで一通りの取材が終わると、澤村が立ち上がった。


「お腹空いたので何か食べようかと。四宮さんは、あ、そうか」


口を押さえたので笑う。


「そうなんです。でも、トマトジュースなら大丈夫なので」


「なるほど」


「お代はこちらで」


「何かすいません。そんなに役に立つかわからないですけど」


「充分ですよ。自分だとわからないことばかりですから。行きましょう」


「はい」


メニューを頼み待っている間、店員と目が合う。目の色が異質なので伊達眼鏡をかけているのだが、ダンピールは珍しいのか目を伏せて上げるとまた合ってしまった。日陰の身だからと引きこもりにはなれないのが辛い所だ。


「いただきます」


席に戻ると、澤村は頼んだスパゲティをフォークでくるくると巻いて食べ始めた。その様子を見ながらトマトジュースを飲む。スパゲティという名称は知っていても味は知らないのだ。


「美味しそうに食べますね」


「はは、ナポリタン好きなんです。四宮さんは、あ、すいません」


苦笑いしている。


「いえ、実は食べられるんです」


フェイントだが驚いたのか、目が丸い。


「えっ!そうなんですか?」


「食べることは出来ますけども」


「も?」


「味もしないし、栄養にもなりません」


「そっか。それだとあれかな。楽しみってあるんですか?」


「うーん。人間とおんなじですよ。本読んだり、映画みたり、動画見たり」


「ふーん」


オレンジ色の麺がみるみる少なくなっていく。ペースが早い。


「普通すぎ…ますか?」


「うん。まぁ、すいません。でもいいと思います」


曖昧なふわっとした会話を交わしていると、心が和んだ。相手がいれば外でこうしているのもわるくはないと思った。







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