第9話 楽しみって何?
◆
カフェで一通りの取材が終わると、澤村が立ち上がった。
「お腹空いたので何か食べようかと。四宮さんは、あ、そうか」
口を押さえたので笑う。
「そうなんです。でも、トマトジュースなら大丈夫なので」
「なるほど」
「お代はこちらで」
「何かすいません。そんなに役に立つかわからないですけど」
「充分ですよ。自分だとわからないことばかりですから。行きましょう」
「はい」
メニューを頼み待っている間、店員と目が合う。目の色が異質なので伊達眼鏡をかけているのだが、ダンピールは珍しいのか目を伏せて上げるとまた合ってしまった。日陰の身だからと引きこもりにはなれないのが辛い所だ。
「いただきます」
席に戻ると、澤村は頼んだスパゲティをフォークでくるくると巻いて食べ始めた。その様子を見ながらトマトジュースを飲む。スパゲティという名称は知っていても味は知らないのだ。
「美味しそうに食べますね」
「はは、ナポリタン好きなんです。四宮さんは、あ、すいません」
苦笑いしている。
「いえ、実は食べられるんです」
フェイントだが驚いたのか、目が丸い。
「えっ!そうなんですか?」
「食べることは出来ますけども」
「も?」
「味もしないし、栄養にもなりません」
「そっか。それだとあれかな。楽しみってあるんですか?」
「うーん。人間とおんなじですよ。本読んだり、映画みたり、動画見たり」
「ふーん」
オレンジ色の麺がみるみる少なくなっていく。ペースが早い。
「普通すぎ…ますか?」
「うん。まぁ、すいません。でもいいと思います」
曖昧なふわっとした会話を交わしていると、心が和んだ。相手がいれば外でこうしているのもわるくはないと思った。
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