第22話
合唱部が終わると静香はすぐにスノーホワイトに向かった。今はバイト中だから邪魔だよね……
静香は扉の近くに立っている。
目の前なら他のお客さんが入れないし,営業妨害ってやつになっちゃう。静香は一応コンビニでおにぎりとお茶で軽めの夕食を済ませていた。
ふと腕時計を見ると,午後6時30分を過ぎた所だ。辺りはもうすっかり暗いけど、お客さんが少しずつ増えて来ている。扉の鈴の鳴る音が何度もしていた。
静香が立っているとチラチラと雪が舞い降りて来た。
どおりで冷えるはずだ。
吐く息も白くなる中で静香はピンクの手袋に息を吹き掛けながら立っていた。
次々と出て来るお客さんを見ながら静香は立っていた。
時刻は午後の9時を過ぎている。
雪は少しずつ辺りを白く染めている。
寒い。
静香は赤い傘を差しながらその場に立っていた。
カバンの中には真輝に渡そうと思っているチョコの箱が入っている。静香はカバンの上からそっと手を触れた。
「お疲れ様でした」
午後10時を過ぎて扉の鈴が鳴ってドアが開くと真輝が出て来た。
真輝は制服の上に黒色のコートを羽織っている。
「あ,あの……相生君,お疲れ様でした……」
静香はおずおずとカバンの中からグリーンの長方形の箱を取り出すと真輝に渡した。
静香の顔は真っ赤になっている。
「わ,私、A組の越智静香と言います。迷惑かもしれないけどこれ受け取って下さい…」
「え?そのためにこの雪の中立っていたの?」
真輝は驚きと戸惑いで上手く言葉が出て来ない。
「め,迷惑ですか…?」
静香の吐く息が白く凍っている。
この状況で迷惑なんて言う奴がいるかよ……
真輝はそう思った。
「と,とんでもない。寒かっただろ?大丈夫か?」
真輝の言葉を聞いて静香は涙ぐんでいる。
「身体冷え切ってるんじゃないか?」
真輝は静香を気遣っている。
「私は大丈夫です…相生君こそバイト10時までなんて大変ですね」
「ありがとう」
真輝はそう言うと笑顔になった。
柔らかな優しい顔。
ああ、やっぱりこの人は優しい人なんだ……
真輝は静香のチョコの箱を受け取った。
「もう暗いから気をつけて帰って」
真輝はそう言うとそのまま歩き出した。
真輝が行った後、静香はその場に座り込んで泣き始めた。
私のチョコを相生君が受け取ってくれた…!
静香の瞳から次々に涙が零れ落ちる。
嬉しい……!
相生君,ありがとう……
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