二人に逢えて良かった
@k-shirakawa
第1話
「こんにちは! 東京の関東ローカルテレビの者です。『汚くても安くて美味い店!』のテーマで取材しているのですが、少しお話を伺わせて頂けますか?」
焼肉食堂の休憩時間に現れた二人の新人テレビ制作スタッフが、店主に名刺を差し出した。
「関東ローカルテレビ株式会社のディレクター、山下道夫です」 「アシスタントディレクターの水島美夏です」
電子タバコを銜えたまま無表情で店内の椅子に腰掛けていた店主は、しぶしぶ名刺を受け取りながら吐き捨てるように言った。「人の店に来て『汚い』とは、礼儀を知らないにも程があるだろ! 帰ってくれ! うちは昔から取材お断りなんだよ!」
「そ、そこは本当に申し訳ありませんでした!」と山下が体育会系のノリで平謝り。「なんとかお願いできませんか?」
「無理に決まってるだろ!」と店主は突っぱねる。
「どうしてうちの店なんだよ? 他にもあるだろう?」と店主が言い放つと、山下が答えた。「安くて美味しいと評判なので……」
「だからって、 取材はお断りなんだよ!」
「そこをなんとか……」と山下が再度食い下がるが、「しつこいな、いい加減帰ってくれ!」と店主が声を荒げた。そのやりとりを見ていた女将が口を開く。「こんな若い二人なんだから、少し話を聞いてあげてもいいじゃない?」
それでも店主は譲らない。「うちは来てくれているお客さんだけを大事にしたいんだよ。全国ネットで放送されたら常連さんが入れなくなる。それじゃ申し訳ないだろ!?」
「ご主人の気持ちは理解できますが、私たちも仕事でして……」と山下が再度懇願したが、店主は一歩も引かない。「取材するだけして放送したら後は知らん顔だろ? うちは父ちゃん母ちゃんと洗い場のパートのオバサンだけで回してるんだ、そんなことに付き合ってる暇はないんだよ!」
二人の若手スタッフにとって、この取材はゴールデンタイムの番組に抜擢された貴重な機会であり、番組を成功させることは大きな実績となる。上司からも「汚くて安くて美味い理由、その隠し味を探せ!」という指令が出ており、二人は地域を足で回って探し出したのがこの店だった。
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