第2話 メコブーの章
「どうした、メコブー。怪我してるけどまた村にちょっかいかけに行ったのか?」
心配そうな顔をしながらゴブリが話しかけてきた。
というか、ゴブリの言葉がわかる。
メコブーの章
「あそこの村は血気盛んな人間が多くて油断してると返り討ちにあるからなぁ」
このゴブリは僕に向って話しかけている。
そして、その言葉を僕は理解している。
「怪我もしてるし、今日はアジトに戻るぞ」
そう言ってゴブリは歩き出す。
よく分からないまま僕は付いてく。
しばらく歩くと洞窟にたどり着いた。
親から危険な場所と言われたのを思い出した。
中に入るとゴブリが沢山いる。
その中の1匹のゴブリが近寄ってきて「怪我してるところ見せて」と怪我の治療をしてくれた。
理由は分からないが、僕はゴブリになってしまったようだ。
このままゴブリとして生活することになるのか。
読みたい本も沢山あるのに。
落胆した状態で隅っこで座っていると、大柄なゴブリがこっちに向ってきた。
「メコブー、あの村を襲うにはまだ早い。今は怪我を治してピグとの戦いが先だ」
そう言って食料を渡してくれた。
後から知ったがビブリという名らしい。
しばらくすると、1匹ゴブリが洞窟に駆け込んできた。
「ピグのやつらが北の砦に攻め込んできた!増援に来てくれ!」
騒然とする洞窟内。
「あいつらブヒブヒ言うしか脳がないくせに」
「最近多くてマジでだりー」
「返り討ちにしてそのまま攻め込むかー!」
ゴブリが文句を言いながら洞窟を出て行く。
ビブリが声をかけてくる。
「メコブー!行くぞ!」
状況がイマイチ分からないが、ビブリから受けた恩は返さないといけないので付いていくことにした。
大勢のゴブリが北の砦とやらの場所へ向けて走っていく。
結構な速度が出ているがゴブリの状態なので付いていける。
「増援来たぞー!形勢逆転だー!」
『ブヒー、ブヒー』
ゴブリとピグが戦っている。
何を言っているか分からないが確かにブヒブヒ言っている。
さっきまでの僕とは違い、棍棒を軽快に振り回せる。
向こうの動きが遅いのかピグの攻撃を避けて倒せている。
「メコブー、今日は調子いいじゃねーか」
並んで戦っているゴブリが激を飛ばしてくる。
その言葉でなんだかテンションあがってきた。
がむしゃらにピグを倒している間に北の砦からピグを一掃できたようだ。
「おつかれー!」
ゴブリが互いに称えあう妙な光景。
でもゴブリの世界ではこれが当たり前なのかもしれない。
「それにしてもあいつらしつこいよなー」
「まぁここの砦は元々はピグの砦だからな」
この界隈ではゴブリとピグが領地争いをしているようだ。
村に来る商人が隣街から来る時にこの辺りが一番危険と言っていたのを思い出した。
ビブリが全員に向けて声をかけた。
「今日はここで全員待機!準備が出来次第ピグのアジトに攻め込むぞ!」
オオー!
ゴブリが一斉に勝ちどきをあげた。
すごい。
これが戦なのか。
本の中でしか見なかった光景がここにあった。
百聞は一見に如かずと言った隣のおじさんの言葉を思い出した。
待機中は各自様々な行動をとっていた。
棍棒の修繕をしたり、怪我の治療をしたり。
眠っているゴブリもいた。
僕も眠気が来たので眠る事にした。
陽が登る頃に目が覚めた。
残念ながら姿はゴブリのままである。
「夢じゃなかったのか」
ボソッと呟いた。
「ん?なんかいったか?」
隣に居たゴブリが聞いてきたが「いや、別に」とだけ返した。
しばらくすると偵察に出ていたゴブリが戻ってきた。
どうやらピグのアジトを発見したらしい。
ビブリに場所を伝えている。
「おし、おまえら!ピグのアジトに攻め込むぞ!」
ビブリが鼓舞する。
オオー!
ゴブリの雄たけびが響き渡る。
タッタッタッ・・・
西の方にある森に向ってゴブリの大群が駆け抜ける。
「シッ!」
先頭を走っていたビブリが全員を止まらせる。
まもなくピグのアジトのようだ。
襲撃をかけるためか、小声でビブリが声をかける。
「今日でピグとの争いは終わりにするぞ!」
声を出さずに全員が拳を上げる。
前方に見張り小屋が見える。
さらにその奥は山がそびえ建つ。
ピグのアジトは森の中の要塞といった感じだろうか。
ビブリが左右に指をさし、ハンドサインで指示を送る。
あらかじめ決めていた部隊がそれぞれの方向へ向って移動する。
僕は正面部隊になった。
正面部隊の人数は少ないがビブリが居るのでなんとなく安心している。
左右に分かれた部隊が配置についた伝令が来る。
いよいよ戦の始まりである。
緊張が走る。
「いくぞ!」
ビブリが声をあげピグのアジトへ攻め込む!
ウオオオオーーーー!
正面部隊が雄たけびをあげながら全力で突撃する。
敵の注意を正面に集めて左右から挟撃する作戦である。
ベタな作戦ではあるが機動力はこちらの方が速いのでピグを混乱させるには少数でも十分。
の、はずだった。
ドサーッ!
見張り小屋を目指していたはずが目の前に土壁が突然現れた。
いや、正確に言うと土壁がせり上がってきたというより、僕の身体が下に落ちた。
ピグは前方からの敵に備えて落とし穴を設置していたのである。
敵を混乱させるはずが混乱しているのはこちらの部隊。
ヒュンヒュン!
ヒュンヒュン!
落とし穴から這い上がろうとしている時に何か風を切る音が聞こえてくる。
ビブリが叫ぶ。
「矢が飛んでくる!全員散開しろ!」
ギャー!
グアーッ!
味方のうめき声が聞こえてくる。
怖い。
身体が震えて動けない。
そう、これは戦なのだ。
本で読んでいる世界と違い現実の戦。
動きが止まっている僕に対してビブリが叫ぶ。
「メコブー!標的にされるぞ、止まるな!」
はっ、そうだ今は戦中。
ビブリの声で我を取り戻して前を向いた瞬間。
ヒューッ!
まっすぐに矢が飛んでくるのが見えた。
ザクッ!
「グァッ!」
「ビ、ビブリ!」
矢は僕をかばったビブリの左肩に刺さっていた。
「全員撤退だ、撤退!」
ビブリがそう叫ぶとゴブリが退散していく。
「メコブー、早く逃げ・・・」
ザクッ!
僕の身体が後ろに飛んだ。
空が見える。
左側だけ。
・・・
バンバンバンッ!
背中を叩かれた痛みを感じる。
「ガハハ、さすがメーグ。見事な弓の扱い。無駄打ちばかりする他の連中にも見習わせないとなぁ」
巨漢のピグがそう言って森のアジトに戻っていった。
前方には無数のゴブリの死体と去っていくゴブリの姿が見えた。
メーグの章へつづく。
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