第3話【推しと通話】
『は、初めまして彼方さん。聞こえてますか』
「は、初めまして月宮さん。大丈夫です、聞こえてますよ」
俺は高鳴る鼓動を深呼吸して抑え、声を少しだけ高くして彼方としての声色で返事をした。
推しと話せて嬉しい気持ちより、緊張のが今は勝ってしまう。
それでもコラボ配信をするんだからそれまでに慣れておかないとリスナーに馬鹿にされる。
『やっほー彼方くん。アリスも一緒だよ~』
「え!? アリスさんも⁉」
『ルナちゃんね、自分から彼方くんに通話誘ったのに緊張しちゃって上手く話せるか不安だからアリスも一緒に通話してって言ってきたの』
『ちょっとアリスちゃん! それは言っちゃダメ!』
なんというか……やっぱりこの二人尊いな……。
『えー、良いじゃん可愛いよ』
『そういう問題じゃないの!』
もう俺会話参加しないでずっと二人の絡みを聞いていたい。
配信見てるのと変わらないけど。
『そ、それで彼方さんとのコラボについてなんですけど……』
「あ、はい。僕は常に暇なのでいつでも大丈夫ですよ」
ルナちゃんは無所属で友達の居ない俺と違って、大手事務所に所属していて配信外の仕事もあるだろうし、ブイラブではメンバーの誕生祭や記念イベント等でライブを開催するため、ボイストレーニングやダンスレッスンを受けたりしているらしいし兎に角忙しそうな感じだから日程に関してはルナちゃん達に合わせなければ。
『じゃあ明後日の日曜日はどうですか?』
「勿論大丈夫です!」
『良かった! それと……えーっと……ホラーゲームを一緒にするって話だったんですけど……』
『ルナちゃんね、誰かが隣に居ないとホラゲーは絶対に無理みたいでね、日曜日にやるコラボは他のゲームにしようかなって思ってて」
な、なんかアリスちゃんがルナちゃんの保護者に見えてきた……。
『それでまた別日に彼方くんさえ良ければオフコラボでホラゲーをやりたいみたいなの』
「オフコラボ⁉」
『えっ⁉︎ オフコラボなんて聞いてないよアリスちゃん!』
『だって今思いついたんだもん。でも彼方くんとオフコラボができるチャンスなんだよ?』
『うぅ……それはそうだけど……彼方さんはそれじゃダメですか……?』
「いやいや、凄く嬉しいし是非したいんですけど僕なんかとオフコラボなんてして良いんですか? 僕無所属だし男なんですけど」
大手事務所所属の超人気女性VTuberのルナちゃんと無所属の男性VTuberのオフコラボって色々ヤバそうなんだけど……。
一部のファンから脅迫状送られてこないよな……。
『それは大丈夫なんじゃないかな。アリスも他の事務所の男性VTuberの人と数回オフコラボしたことあるけど別に変な噂が出たりとか荒れたり炎上したりしなかったから。それにブイラブにも男性VTuberは居るし異性とのコラボが禁止されてるわけでもないから』
確かにアリスちゃんとか雫ちゃんも男性VTuberとオフコラボはしていて炎上はしていなかった。
けれどルナちゃんはまだ一度も男性VTuberとオフコラボをしていない。なんなら男性VTuberと二人での配信すら一度もしていない。
けどまぁ……ルナちゃんとコラボできるなら炎上してもいっか。
VTuber人生に悔いはない。
「そ、それなら良いんですけど……」
『そういえばずっと気になってたんだけど、彼方くんってなんで事務所に所属しないの?』
「ちょっと考えてるんですけどね……募集中で良い事務所が中々なくて」
募集しているところもあるにはあるけれど、殆どが女性限定だったり登録者二十万人以上等条件が俺に当てはまらずに応募することができない。
『そうなんだ。良い事聞いたねルナちゃん』
「良い事?」
『あーこっちの話しだから気にしないで』
事務所に所属していたらコラボとかで色々面倒ごとがあるのか?
だとしたら俺が無所属で良かったって事か。
「それでホラゲーじゃなかったら何のげームをする予定なんですか?」
『それはルナちゃんが今の所全敗のあれにしようかなって思ってるんだよね~』
『そ、そんな言い方しなくても良いじゃん!』
「あー、なるほど。あれですか」
『ちょ、ちょっとなんで彼方さんもそれで分かるんですか!』
「有名なんでそれくらい月宮さんのファンなら誰でも分かりますよ」
『私そんな事で有名になりたくないよ!』
『それで彼方くんは大丈夫?』
「はい。勿論大丈夫です」
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