幼馴染に勧められてVTuberを始めたら何故か推しの大人気VTuberに配信で話題にされた

第1話【推しが俺の話をしているんだが】

『VTuberやってみたら？』

　俺、篠宮翔太（しのみや　しょうた）が幼馴染である七瀬香澄（ななせ　かすみ）にそう言われたのは今から二年前の高校三年生の時だ。

　当時俺は趣味で顔を出さずにホラーゲームを中心にゲーム配信をしていた。

　配信を始めたばかりの頃の同接は良くて五人程度。コメントも全然来ない。

　いくら趣味と言え、もう少しコメントも同接も欲しい。そう考えた俺は配信だけではなく実況動画も出してみることにした。

　実況動画も同じく最初は殆ど再生されなかった。

　けれど一つの実況動画がある日突然再生回数が急上昇し始めた。

　何故急に伸びたのか、それは俺が当時実況していたホラーゲームを超大物実況者達が実況動画を上げた事で、関連として俺の動画も見てくれる人が沢山居たのだ。

　それからの実況動画も徐々に再生回数は伸びて行き、配信の同接も三桁を超えるようになった。

　そんな俺にVTuberを勧めてきた理由を聞いてみると、どうやら今VTuberというコンテンツの勢いが凄いらしい。

　配信をしている身としてVTuberの存在を知らないわけではないが、そんなに勢いがあるとは知らなかった。

　香澄の話を聞いているうちに興味を持った俺はVTuberに必要な物、費用ついて色々と調べた。　

　そして大学一年生の時に俺はVTuberとしてデビューをした。

　VTuberになる前から配信をしているため、デビューから一定の視聴者を確保していた俺は順調に登録者と同接を伸ばして行き、今では登録者数は四万人にまで行った。

「あ、もう時間だな」

　俺はベッドに寝転び、最推しのVTuberである月宮（つきみや）ルナちゃんの配信を開いた。

　月宮ルナちゃんは大手VTuber事務所である【ブイラブ】の二期生で、チャンネル登録者数も百四十万人を超える大人気VTuberだ。

　ルナちゃんは腰まで伸びた綺麗な銀髪に月の形のアクセサリーを身に付けている。

　声も容姿も凄く可愛らしく、明るい性格をしていて配信も凄く面白く人気が出るのも必然だ。

『やっほーみんな、こんルナ～』

　配信が始まるともの凄い勢いでコメントが流れていく。

『今日は前話していた通りアリスちゃんと一緒に皆の質問に答えていくね』

『どうも～猫葉（ねこば）アリスだよ～』

　アリスちゃんは【ブイラブ】に所属しており、ルナちゃんと同じ二期生だ。可愛らしい猫耳、尻尾が特徴のチャンネル登録者数は百十万人を超える大人気VTuberだ。

　今日は珍しい質問コーナーの配信に加え、ルナちゃんとアリスちゃんのオフコラボという事もあって同接は三万人を記録している。

『じゃあ早速一つ目の質問に答えて行くね。えーっと【休日は何をして過ごしていますか？】

『でも私達毎日が休日みたいなもんだし……配信がお休みの日は基本寝てるかなぁ～』

：名前の通り猫みたいで草。

：目が覚めたら次の日とかになってそう。

：この前二時間配信が遅れたのは絶対に寝てたからだな。

『ち、違うから！　この前の遅刻は寝てたんじゃなくて事務所から電車で帰ってたのね？　それでちょっと距離あるから目閉じて次に開いたら知らない駅に居たの』

：きさらぎ駅で草。

：結局睡眠が原因で草。

：良かったな無事に帰って来れて。

『電車が早すぎただけですー。ルナちゃんは何してるの？』

『う～ん。ルナは猫ちゃんと遊んでるかなぁ～』

：猫ちゃんの写真待ってます。

：そういえばルナちゃんの家の猫の名前って何？

『まめちゃんって名前だよ。毛がふさふさで抱っこも嫌がらずにさせてくれるんだよ～』

『いーやそれルナちゃんにだけだよ。だって私さっき抱っこしたら威嚇されたもん』

『それだけじゃないもんね、ルナの隣に座っただけで威嚇されてたもんね～』

：ルナちゃんを取られると思ってるんだろうな。

：ルナちゃんを守ってるまめちゃん可愛い。

：それか凄く嫌われてるかだな。

　そんな感じで次々と質問を答えて行く二人。

　気づけば配信は一時間を超えようとしていた。

『えーっと次の質問は【これだけは絶対に無理って物は？】』

『私は基本NGは無いかなぁ～。何でもウェルカムだよ…………あ、やっぱり嘘。虫だけは絶対に無理』

『虫はルナも絶対に嫌だなぁ。後はホラー系もちょっとダメ……いや結構ダメかな』

：そういえばルナちゃんってデビューしてから一回もホラーゲームの配信してないよね。

：そろそろホラゲー配信してくれてもええんやで。

：ホラーで叫びまくるルナちゃん期待。

；アリス、今こそ出番やぞ。隣に居るルナちゃんのPCにホラゲーをダウンロードするんだ。

『でもルナちゃんホラゲーするのはダメだけど見るのは大丈夫なんだよね』

『大丈夫じゃないよ！　全然だめだよ』

『え？　でもこの前話してた人の配信ってホラゲーメインじゃなかった？』

『そ、そうだけど部屋の明かり付けて音量も小さくして少し目を開けて見てるの。それにホラーゲームじゃないゲームも配信してくれてるもん』

：少しずつ克服していけばええんやで。

：これからルナちゃんの罰ゲームの内容はホラゲー配信で決まりだな。

：少しでも見えるならプレイも多少はできるんじゃないかな？

『こ、この話は終わり！　次の質問に行くね【ブイラブメンバー以外でお勧めの配信者はいますか？】』

『ルナちゃんはこの前言ってた子でしょ？』

『うん。さっきも話したけどホラーゲームメインで配信してるんだけど。それだけじゃなくて雑談とか他のゲームも配信してくれるんだ』

：誰だ？

：ホラゲーメインの配信者結構居るからな。

『星乃彼方（ほしの　かなた）さんっていう個人VTuberなんだけどね。声がカッコよくてトークも面白いからホラーゲーム配信も少しは見えるんだ』

　…………ん？　今なんて言った？

　星乃彼方？　そんなわけないよな。だって星乃彼方って俺のVTuberとしての活動名なんだから。

：星乃彼方って聞いたことあるな。

：ルナちゃんが彼方の配信見てるってマジ？

：彼方トーク面白いから結構怖めのホラーゲームでも笑っちゃうときあるんだよな。

『そうなの！　今までホラーゲームの配信も何度か見てきたけど彼方さんの配信が一番怖くなく見えるの。怖くなくって言っても少しだけなんだけどね』

『確かにルナちゃんに勧められて見てみたけどトークも上手で面白かった』

　ま、まさかな……俺と同じ名前の配信者がたまたま居るんだろ。

　そう思いスマホで星乃彼方と検索してみた。

　けれど星乃彼方という名前のチャンネルは俺のただ一つだった。

　漢字を変えて検索してみると奏多という名前で活動しているVTuberさんが居たが、ホラーゲームの配信は一度もされていないだけではなく、最後の配信は六カ月前になっている。

　い、一応確認……しようかな。

：星乃彼方✓　勘違いだったら申し訳ないんですが、今僕の話をしてますか？

『………え⁉　え!?　ちょっと待って！　……彼方さん!?　え、本物⁉』

：まさかの本人登場で草

：これ今日の切り抜き確定やな。

：激熱展開キタｗ

：彼方、ルナちゃんにお勧めのホラゲー教えてやってくれ！

：彼方がどこかの配信でコメントするなんて初じゃないか？

　嘘だろ？　ルナちゃんが俺の配信を見てくれている？

　超人気VTuberのルナちゃんが個人VTuberの俺の配信を？

『おー！　確認してみたら本人みたいだね』

『え、どうしよう！　い、いつも楽しく配信見させてもらってます！　あの、できればホラーゲーム以外の配信を沢山してもらう事ってできますか？』

　と、とりあえず返信しなくては。

：星乃彼方✓　こちらこそいつも楽しく配信見させてもらってます。ホラゲー以外の配信はなるべく頑張ります。

『良かったねルナちゃん』

『え、待ってさっきの声がカッコいいとかも聞かれてたって事だよね。恥ずかしすぎるんだけど』

『ルナちゃん今めっちゃメスの顔してるよ』

『ちょ、ちょっと恥ずかしいから言わないで！』

：彼方が現れてからルナちゃんの声のトーンが明らかに上がったｗｗ

：貴重なルナちゃんのメスシーンｗｗｗ

『あ！　良い事思いついた！』

『良い事？』

『せっかくだからさ、ルナちゃんと彼方くんでホラゲーのコラボ配信したら？』

　……え？　俺とルナちゃんが……コラボ配信？

　さ、流石に今度こそ聞き間違えだよな。

：ルナちゃんと彼方のコラボ見てみたいかも。

：ホラゲー上級者とホラゲー超絶苦手のコラボｗ

：彼方とルナちゃんのコラボとか俺得でしかない。

『で、でも彼方さんに迷惑になっちゃうかもしれないよ』

『それは彼方くんから聞いてみないとね』

『え、えー。良いのかな？　……えーっと彼方さん、良かったらコラボしていただけませんか？』

：めっちゃ甘えた声で草。

：こんなルナちゃんの声初めて聞いたかもｗｗ

　聞き間違えじゃ……ない？

　大人気VTuberのルナちゃんと個人のまだ登録者も三万人の俺がコラボ？

　そんな事があって良いのか？

　でもこんなの断れるわけがない。

：星之彼方✓　ルナちゃんさえ良ければ是非よろしくお願いします。

　こうして俺とルナちゃんのコラボ配信は決まった。

　そしてその日のSNSのトレンドの上位は『月宮ルナ』『猫葉アリス』『初ホラゲー』『星之彼方』『コラボ配信』等で埋め尽くされ、多くの切り抜きが投稿され、俺のチャンネル登録者は爆伸びした。