あんまりな終わりを迎えた僕は、4年後が見たい為に魔王を倒す。
さんまぐ
第1話 救済の女神様に提案される僕。
死を覚悟した帰り道。
下り坂。
子供の頃から橋の多い橋街だと思っていた。
坂は危ないから、自転車は歩道を押して下りましょう。
そんな事を言われても時間がない。
夕飯の支度、買い出しがある。
予定外にお金を使ったから、一度家に帰らなければならない。
普段と違う行動を万一親に見つかると面倒くさい。
死ぬ事を覚悟していても、まだ生きているなら、やる事はやらなければならない。
下り坂、自転車を加速させる為に踏み込んだらチェーンが切れた。
遂にきた。
ガクンと勢いづく身体。
次にその身体を支えるサドルが落ちた。
わかっていた。
姿勢制御をする為にハンドルを握り、ブレーキをかけたところで切れたブレーキワイヤーと外れるブレーキパッド。
何故か全て見えている。
直後にビィン!という音でスポークが何本か折れた。後輪のスポークも折れた音がした。
壁に身体を寄せて勢いを止める事も考えたが、おろし金みたいな壁では生き延びてもふた目と見られない見た目になるくらいなら選びたくない。
そもそも生きていてもいい事はない。
かといって、死ぬ勇気もない。
ただ、この先あるかもしれない自由に夢と希望を抱いている。
坂はもうすぐ終わる。
植え込みに突っ込めばそれでいいと思ったが、ガタガタと振動が嫌に腕に響く。
一瞬下を向くとタイヤが裂けていた。
そして歪むタイヤの衝撃により、遂にフロントフォークが折れた。
前方に放り出されかける身体。
スローモーションの世界の中。最後に見えたのは左側から一時停止を怠ったトラック。
次の瞬間、くぐもった音と衝撃の中、僕の意識は消えた。
・・・
目を覚ました僕は不思議な場所にいた。
足元は鏡のような水面なのに、身体はどこも濡れていない。
目の前には見渡す限りの青い空なのに空は星空。
空を見ながら僕はここがあの世なのかと思っていると、「いいえ、違います」と聞こえてきて、前を向くとそこには金眼金髪で外国の映画なんかで見るような薄着姿の格好をした女の人がいた。
僕が声をかける前に女の人は「私は救済の女神」と名乗る。
そんな展開はスマホ漫画の中で沢山読んだ。
僕は驚きながら話を聞くと、日本人の中ではわりかし不幸な方に位置する僕を女神様は救済したくてきたと言った。
確かに夜の闇の中、世界を恨み、自分を呪いながら神様が居るなら助けて欲しい。この不条理な世界から助けてくれと願った事もあった。
でもそれは意味をなさない神頼みだと思っていた。
僕は自由にならないと一生今のままだと思っていた。
それが、今更目の前に現れた。
「ありがとうございます女神様」
「いえ、それが私の使命。さあ新しい世界へ行きましょう」
新しい世界というフレーズが気になったが、「いえ、僕はいいので、他の誰かを救ってあげてください。事故ですよね?僕はこのまま死にます」と言って女神様に微笑んだ。
「は?」
「え?僕はいいです」
女神様が物凄い剣幕で「何故です!?日本以外ならありえた話にしても、日本ではあんまりなのですよ!?」と聞いてくる。
「なら、日本以外の他の世界の人を助けてあげてください」
僕は言ったが、女神様は、女神様の基準があるらしくて、それによれば、仮に貧しい国があって、そこで僕並みの目に遭った子が居ても、平均値、中央値を取ると、案外その子達は女神様のお眼鏡にはかなわない程度の基準になるらしい。
「いいですか?
ああ、神様は本当なんだ。
名乗らなくても名前を知っている。
「今の日本、あなたの周りの人の幸福度の中央値が100だとした場合、あなたの幸福度を数値化すれば13です。貧困国で同じ目に遭った子がいても、中央値が50で、同じ目の子は35とかなんです」
「格差の範囲が少ないからお眼鏡に敵わない?」
「そうです!」
まあ、そう言われれば少しはわかるし納得もする。
9人がかり…あ、あのトラックの運転手を入れたら10人に殺されたから不幸は不幸で、助けられるべきなのか。
「ところで、なんで女神様はそんなに必死なのですか?」
「これが仕事、いえ、本能だからです。救済こそ私の本能。助けたいんです」
なんか聞いていると神様というのも大変そうに思えてくる。
どこか他人事で、救済を受けると言わない僕を見て、女神様は「なんで返事に困るんですか?」と聞いてくる。
「んー…、幸せになる未来とか、そういうものがイメージできません。それならこのまま死んでも大差ないと思いました」
「それは、今までの暮らしなら理解できますが、あなた達の世界にあるような、物語さながらの異世界です。間違いなく幸せになれます」
これが神様でなければ詐欺を疑うが、神様が言うのだから本当なのだろう。
それでも僕はウンとは言いにくい。
そんな僕に女神様は「火葬までの時間をあげます。そのままここで考えて、下界をここから見てください。それを見たら異世界で幸せになろうと思えるはずです」と言ってテレビみたいなものを用意すると姿を消した。
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