20 今年の剣術競技会

「おはよう、パトラ」

「リリー、おはよう。ナタリーおはよう」

「おはようと挨拶をかわすと教室の隅に引っ張って行かれた。


「どうだった?」

「どうだったの?お・う・じ・さ・ま」

「なに?ナタリー馬を見に行ったのよ」

「それにしても相手が王子殿下だったとは」とナタリーが胸をなでおろす仕草をしながら言った。

「そうね。でもあの子いい家でいいのかな?えっといい所へ貰われていったわ。名前まで貰っているのよ。ジョンって言うの。体も大きくなっていたから、いい調教師がいるでしょうし、可愛がって貰っていると思う。うちにいるよりずっといいわ」

「良かったね」とパトラは言ったが、リリーを横目で見ながら

「王子様とはなにもなかったの?」

「なかった」

「やっぱり」とパトラが言ってナタリーと二人で笑うから

「ひどいわ」と泣き真似をした。


「そろそろ、始まるわ。いこ」

「うん、行きましょ」と二人が言ってわたしは頷いた。


会場は人が多かった。やはり、王子殿下が出るから見物するよねとリリーは観覧席をずっと見回した。


あら、お父様。ジョンを見たら驚くわね、どう振舞うかな?ちゃんと出来るかな?


ちゃんとするってこの場合、どういうこと?


わたしは、お父様とアナベルがいつも視界に入るように、体の向きを調整した。


最初は、去年も出てた人だ。馬はかわってる。

上手だ。あの変なコース設定の罠にかからなかった。うん、わたしだって、二回目だったら、従わせることが出来るかも?


出場者は皆、やはり上手だった。そして王子が出て来た。お父様が不思議そうに見ている。

入場の時もあれっと思ったようだが、今、改めてじっと見て、あっと思ったようだ。


どうするのが、最適解なのか?気づかない振り?いい馬でしょとかなんとか言ってみる?

おっと、ジョンを見なくては。ジョンは競技を楽しんでいるようだ。ハリソン様と一緒に彼の意のままに動くのが楽しいようだ。


父は動揺を隠せずにアナベルが燥いでなにやら話しかけても、ろくに返事ができないよだ。

ふん、小心者ね。


しばらくすると剣術の競技が始まった。本戦だけあって全員が強そうだ。


今からの試合は、二年生と三年生が戦う。打ち合っているが、相手の体に当たらない。剣に当たっている。


二年生の剣が三年生の腕に当たった。痛そうに後ろに下がったが、すぐに前に出て打ち合った。次は二年生に当たった。痛そうだが試合は続いた。動きが遅くなった二年生の首元に剣が向けられて試合が終わった。


ロバート様の一回戦の相手は小柄な一年生だ。なんだか、動きが早い。そしてロバート様が遅い。なんとかロバート様は剣に剣をぶつけている。


あっぶつけ損なって、脇腹に剣が当たった。終わってしまう。急いで回復を打った。


「いいぞ、ロバート。よく我慢した」と声がかかった。アナベルもロバート様の名前を呼んでいる。

次は脇腹をかすめた。ロバート様が蹲ってしまった。回復を打った。


相手は首をかしげている。たしかにロバート様は弱いみたい、全然打ち合いが続かない。


「いいぞぉロバート、耐えろーー」と声がかかる。

「リッチー決めろーーー」と言う声もする。


ロバート様耐えているのね。もう手出しはしないようにしよう。


そして、相手の剣が脇腹にはいって、ロバート様は蹲り、勝負がついた。


なんとか体を起こしたロバート様にアナベルは駆け寄らなかった。どうして?



「どうした。それくらいで痛がるな!」と言った声やいろんな声が聞こえた。

「今年はどうしたんだ?」

「あっけないけど、こんなもんだよな」

「実力相応だ」そんな声も聞こえた。


思ったほど、いい気持ちになれない。それにほんとに弱いロバート様を去年は勝たせてしまった。


負けた人に悪いことをしたよね・・・試合に出て来たら回復を打てばいいかな? いや、そういうもんじゃない。


どうしよう・・・


わたしが悩んでいる間に決勝戦になった。騎士団長の息子さんと三年生の強そうな人が対戦した。


二人は剣を何度もぶつけ合って、場所もくるくる代わった。アナベルが息子さんを応援してる。


ずっと試合をするのかと思ったら、二人は分けられた。どうも二人が優勝らしい。


剣術をあまり知らないわたしでもわかった。この人達とロバート様は比べ物にならない。



あぁ去年のわたしを殴りたい。



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