12 ひとりのお茶会

「あずまやでお茶を飲みたいから、用意して」


わたしについている侍女だっているのだ。ルビーとエメ。子供の頃からこの二人が付いている。付けて貰えない程いい加減に扱われているわけでない。一応令嬢だ。専属の侍女はついている。ただ侍女がちゃんと働いているかを気にしないのだ。わたしに関心がないのだ。侍女だってないがしろにされているわたしに仕えるより、アナベルに仕えたいだろう。それは理解出来る。


「なんですってお嬢様。わたしたちは忙しいのですよ」と二人が言い返してきた。


「わたしの世話以外になにが忙しいの」と言うと一人がこう言った。


「これだから、考えなしは」


「わかりました。お忙しい所。どうも」と言うと自分で厨房に行き、お茶を入れたポットとお菓子を乗せたお皿をお盆に乗せると、あずまやに自分で運んだ。


あずまやは客間から見えるのだ。


わたしは一人で悠々と座ると、お茶を飲んでお菓子を食べながら泣いた。水魔法で涙を増やした。


悲しいからじゃない。悔しいからだ。


泣いて、ハンカチで大げさに涙を拭いた。



さりげなく、客間を見るとこちらを気にしているようだった。やりすぎは悪手だ。


またわたしは、自分でお盆を持つと席を立った。



夕食の席でお母様が


「ちょっといい加減にしなさい。どれだけ考えなしなの。侍女はなにしているの?」


「なんのことでしょうか?」


「あずまやよ。なんで自分でお盆を運んでいたの?それに婚約を解消したのに平気でお茶を飲んでるの?」


「はい、お母様、最初の質問は侍女が働かないからです。婚約を解消のことですが、婚約を解消された場合、どういう反応を予想なさったのですか?」


「婚約を解消されたので泣いていたのですが・・・」


「・・・そ・・それ・・・それは」とお母様がどもっているとアナベルが


「お姉さまは考えなしですね」とアナベルが得意のセリフを発した。父と兄と弟が


「ほんとうにそうだ」「まったくだ」「ほんとうだ」と言ったが、母は、それに頷きわたしはそれを無視した。


わたしはじっとお母様を見据えて答えを待った。唇には自愛の(本人がそう思ってるだけ)微笑みも浮かべて。


「奥様」とわたし付きの侍女の一人ルビーが呼びかけた。

「なに?」

「そのわたくし達は、忙しかったのです」とルビーが言うと

「客間のお茶会のお手伝いで忙しかったのです」もう一人の侍女のエメも言った。


「なるほどね。わかりました」とお母様は話を打ち切った。これ以上は夕食時に話すことではない。


お母様としてはわたしが謝って終わりのつもりだっただろう。だけどわたしはそうしなかった。


わたしは追い打ちをかけた。


「婚約者を妹にとられて婚約解消された姉がどういう態度をとるのが正解なのか明日にでも教えて下さいませ。お母様」


そう言いながらわたしは、涙をポロポロ流した。水魔法って便利。


「ひどい、わたしがとったって」とアナベルが言うので


「あら、アナベル。この二人が話していたの。婚約者のわたしとのお茶会を十分で終わらせてあなたと会っていたんでしょう。両家の両親がそれ認めていたって使用人の口から広まるのよ。だ・か・らわたしが取るべき態度をお母様にご指導して欲しいの」と優しく説明してあげた。


お父様がなにやら、わたしを見ている。珍しい!ううん初めて?

お母様はショックを受けたようで、顔色が悪い。


別にどうでもいい。わたしは涙を拭きながら、デザートが配られるのを待った。

席を立って終わりになんてしない。

お兄様とカイルは居心地が悪そうだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る