五章 閃風のフローライト⑧
ボーン……!
その時、終わりを告げる鐘の音が鳴った。
これで大体の貴族達は帰路に着くのだろうが“選ばれた者”だけが参加できるという夜会が始まるのだろう。
「グランツ……」
「イヴは先に屋敷に戻っておいで。私はこれからもうひと仕事だ」
「はい……。お気を付けて」
馬車があるところまで送り届けて貰うと、馭者のアンバーが嬉しそうに手を振った。そして中に入ると、待機していたフローライトが抱き着いてきた。
「お帰りなさいませ〜、イヴリース様ぁ」
「フローライト、待たせてしまってごめんなさい」
「そんなことはありません。どうでしたか、初の舞踏会は?」
「あっという間に終わった気分。これでもまだ小規模なのでしょう? 信じられないわ」
「……! イヴリース様、失礼します」
その時、フローライトがムギュと頬を寄せてきた。
「イヴリース様、会場内で勧められたお飲み物、飲まれたりしましたぁ?」
イヴの呼気から何か察したのだろうか。
不意にそう言われると、果実酒を一杯だけ飲んだことを思い出し伝えた。
「“空気”の変化なら私は読めますけどぉ、成分まではシンシャじゃないと分からないなぁ。でも多分、催淫効果のある何かが仕込まれてましたよ?」
「催……ッ」
とんでもない言葉に思わず声を失う。
あの後一人の男性が話しかけてきたが、グランツが守ってくれなければ危なかったということだろうか。思わずゾワリとした悪寒が肌を駆け上る。
「舞踏会にかこつけて、一夜だけの関係を築こうとする男女も多いそうですからぁ。イヴリース様、狙われたんですねぇ……よしよし」
ポンポンと頭を撫でられながらイヴはフローライトに抱き着く。
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