五章 閃風のフローライト⑥

「そう。テンポは一定に、ゆっくりと焦らなくていい」

 グランツの指導のもと一曲をなんとか踊り終える。

 それだけで息が乱れてしまった。頭と身体で覚えるダンスの難しさに内心悲鳴を上げていると、サッと人混みの中からグランツは連れ出してくれた。そして、

「あとは私とゆっくりしようか。一緒にいれば先程見たく話しかけられることもないだろう」

 微笑むグランツに顔が赤くなる。もしかしたら、他人との交流を深める機会なのかもしれないが、今のイヴにとってはそこまで気を回せる余裕はなかった。

「……グランツのお仕事は様々なのね」

「そうだね。時にはこういう仕事もある。……シーズンの練習も兼ねてイヴにも舞踏会の機会があったら参加して貰おうかな」

 フフッと楽しげに笑うグランツに対しイヴはわたわたと慌てた。

「ほ、ほどほどに……頑張ります。まずはダンスからですけれど」

「ダンスか。私はオブシディアンから習ったけれど」

「オブシディアンから……。あの方はなんでもできるのですね」

「そうだね。私の幼い頃からの友人でもあり先生でもあり使用人でもあるよ」

「複雑ですけど、長く一緒にいられるのは素敵な関係ですね」

「何を言っているんだい? イヴとはこれからずっと一緒だっていうのに?」

「あ……っ」

「その素敵な関係に、私達もなっていくんだよ」

 そう囁くとグランツはイヴの手の甲にそっと口吻キスをした。

「は、はい……」

 まさか人前でされると思っていなかったイヴは高鳴る胸の苦しさに既に倒れそうになっていた。

「で、でも――凄いですね。仮面舞踏会って私、初めてで圧巻ですね」

 気恥ずかしさを誤魔化すように仮面越しにチラリと舞踏会の様子を盗み見る。男女それぞれが様々な仮面をつけていて、表情の読めない仮面は少しだけゾッとした。

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