四章 令嬢のイヴ⑦

 ✿ ✿ ✿


「あの怪物に酷い目に遭わされませんでしたか! イヴリース様……!」

 休憩のために食堂へとやって来たイヴを出迎えたのは、四人の侍女達だった。

「オブシディアン様から、イヴリース様が怪物オニキスのところに行ったと聞いて心配で仕事が手に付かなかったよ」

「朝ごはんも食べずに行ってしまうんだもの〜。ご飯はきちんと食べましょう〜?」

「ボクもそれには賛成。ご飯食べないと倒れちゃうよ」

 次々と捲し立てる侍女達だが、唯一聞き取れた言葉を反芻する。

「怪物……? オニキス……?」

 それが誰のことを言っているのかいまいちピンとこない。

「料理長のオニキスおじ様以外に、他にもいるんですか?」

『オニキスおじ様ぁ……!?』

 イヴの言葉に、四人が一斉に声を上げる。

 普段表情をあまり変えないアンデシンですら、驚いた顔をしていたのが印象的だ。

「怖い方でも、悪い方でもありませんでしたよ? とても親切にして頂きました。午後からパイ作りの続きをするんです」

 にこにこと微笑み答えるイヴの姿に四人は互いに顔を見合わせながら小首を傾げる。

「代役の別人とか?」

「あのオニキスが、だよ。ボク信じられないな」

「不思議ね〜」

「夢でも見ていた、とか」

 口々に様々なことを話す侍女達に苦笑しながら、運ばれてきた料理に手を合わせてから、マイペースに食べ始める。

 料理はどれも温かく味も染みていて、柔らかい。それらの料理をオニキスが作ったと思うと、心がポワポワと暖かく幸せな気持ちになった。

 ただそれでも、オニキスの感情の匂いが寂しそうなのが気になった。本当は厨房に籠もらずみんなと話したりしたいのではないか。そんな、お節介かもしれない気持ちが心の中に浮かんだ。

(お優しい方なのに、誤解……されやすいのかしら)

 だがそれも昨日今日来たばかりの新参者であるイヴが考え決めつけるのも違う気がする。そんなことを悶々と考えながらも、美味しい食事をゆっくりと丁寧に食べていった。 

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