第5話 南北協議会

「すいませんでしたぁ」


締め切った窓越しからでも声が漏れるほど大きな声が部屋に聞こえてきた。服装は野球部・・・と何故か上裸?いや、下着しか身につけてない男の集団が正座して一列に並んでいた。


「なんなのこれ」


自分でも無意識に言葉を発するほど唖然としている。朝の件といい何がしたいのかがさっぱり分からない。うちの家族と違って裏の目的とかそう言うのが一切わからないから困惑する。


「いいか國崎、これが俺ら流の”詫び”だ」


キメ顔混じりの顔をこちらに向けそう言われるも訳が分からない。


「今朝の件、本当にすまなかったと思っている。俺たちに悪気は無かった。そっちの会長に糞を触らせようなんて、流石に俺も想定外だった」


謝罪の場において”糞”という単語を発する人間がこの世にいるのかと感心していた。いや、呆れていた。


「今朝の件で生徒会とは関係のない人間だが、どうしても直接謝りたいらしいからここに入れてもいいか?」


「まあ」


本来は関係者以外立ち入り禁止の部屋であるが、直接謝罪と聞けば許可せざるを得ないだろう。そう思い、しかし私の呆れ具合が伝わるようにやる気のない返事をした。


「コイツはハルト。俺の野球部時代のダチで今朝の犯人だ」


「南の会長が汚いボールをワザとこっちまで打ったんじゃないの?」


「打ったのは確かに俺だ。しかし糞はコイツのだ。見てみろ!」


次の瞬間、ハルトとかいう男の穢らわしい下半身に身につけた下着が視界に入った。


「この染みこそが糞をコイツが漏らした証拠だ」


べチンッ


私が思考停止して言葉を失っている隙に肉塊を鞭で叩く音が聞こえた。意識を戻し現状を確認するとアリサが向こうのハルトとか言う生徒と交戦・・?いや、一方的に殴っていた。。。


「アリサ、ストップ。これ以上は跡が残る」


その一言でアリサは自分の席につく。


「あのね、さっきから何がしたいのかさっぱり分からない。窓の集団は何?コイツの下着を何故見せた?何がしたいの?」


怒りをぶつける。私は被害者で、もっとちゃんとした謝罪をもらえると思っていたのに待ち構えていたのはこの有様だ。



「会長、作戦失敗どころか向こうめっちゃ怒ってますよ」


向こうのそんな耳打ちが聞こえる。悪いが私は地獄耳なのだ。育ってきた環境が違うから。


「分かった。今朝の件から順を追って説明する」


さっきまでとは打って変わって空気が引き締まった。そして私は今朝の件、向こうで何が起きていたのかの説明を受ける。


「本当で申し訳なかった」


彼はそう言い、先ほど連れてきた男と並んで土下座をした。窓の外の野球部員たちと恐らく野球拳とやらに負けた人たちも並んで土下座をしている。


「これが我が野球部名物、逆富士土下座だ」


ゴキブリが喋ったと思い足元を見ると踏んづけていた頭から声がしていた。向こうの会長の声だった。


両窓からV字に並んだ野球部とその真ん中に位置する二人。なるほど逆から見た富士山型に土下座した人が並んでいるから逆富士土下座なのか。頭の中で少し考えて納得した。


「ん?名物ってアンタ達よく土下座してる訳?」


思わず素の声で聞き返してしまった。あと土下座している頭を踏むのは可哀想なので足を退けると


「うち、強豪校だからたまにボールが民家に入っちゃうことがあって、怒りが収まらない時にはこれで収めてるんだ」


地面に擦れて真っ赤になったおでこを全く気にせず向こうの会長は喋った。え、マジでなんなのコイツ。


「話は逸れたが、結論は話した通りコイツの行動が悪い。だからハルトはそっちで好きにしてくれ」


「え、好きにしていいの?」


つい数分前まで険しい顔をしていたのが一瞬で笑顔になり聞き返す。


「お、おう。煮るなり焼くなり、出汁取るなり」


若干ドン引きながらそう答える会長。そしてその会長を正気!?と言わんばかりに恐怖で怯えながら睨みつける糞ブタ・・いや、ハルトくんが居る。


「アリサ、とりあえずコイツこっちの”学校で一番涼しい部屋に”」


「了解」


「え、なんだ”学校で一番涼しい部屋”って。私立ってエアコンの温度部屋毎で変えれるの?真夏日でも28度に固定されてないの?」


困惑気味に会長が話しかけてくる。


「涼しいってのは、エアコンとかそう言う意味じゃなくて、ん〜っと、まあ悪いことした人を良い人に変える部屋みたいな?あとエアコンは大体職員室で一括管理」


「なんか、よく分からんがエアコン一括管理はそっちも変わらないんだな」


「うん!」


向こうの会長と何かよく分からない話をしているうちに気が付けばハルトくんはアリサ引きずられながら部屋を出ていった。


「ねえ南の会長さん、一回私たちだけで話せないかな」


「分かった」


新会長同士で少し話がしたい、なんなら毎朝している事が気になっていたので両サイドの生徒会メンバーには帰ってもらい少し話をすることになった。




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