第40話 大学へ

 あれから数日して、俺は東神大学への入学式へと参加していた。

 一応、大学の説明としては、ここは生徒の自主性を重んじる大学であり、スポーツ、勉強、その他趣味嗜好など。あらゆる場において生徒の好きなことを好きなようにさせてくれる大学だ。

 例を挙げるとするなら、俺のようにゲームで強くなって生活をやりくりしたい人とか。そんな人たちが集まるから、周りの大学や高校から「変人大学」とも呼ばれてる。

 そんな悪口を言われているにも関わらず、東神大学への倍率は非常に高い。なぜなら、生徒たちにとっては多様性のある大学ということで好印象を抱く人もいるからだ。

 どうしても夢を諦めたくないという人もここに進学するな。

 と、長ったらしい大学長の話も終わり、俺らは入学式を終えて……。


「では最後に、在校生代表、大空おおぞらそなたの挨拶です」

「……」


 どうやら終わってなかったらしいです。

 俺は浮かしかけた腰を再び椅子へ掛け、目線を前へ向ける。


「どうも皆さん。ご紹介に預かりました。大空そなたです。皆さんが本校に入学を果たしてくれたことを、大変嬉しく思います」


 挨拶をしているその人は、赤の混じった髪に赤く輝いているような瞳が印象的だ。髪に関しては見る限り染めてない。地毛なのだろう。

 瑠実のような可愛い系の女性と違い、彼女はザ・綺麗系って感じだ。

 美人だなと思っていると、後ろあたりから怨念の気配が……。

 振り向くと、偶然来ていた瑠実がこちらを睨んでいた。

 あの目は「お前、私と比べたろ」と言っている。はい、比べました。すんません。

 まあ、そんなんで大空さん?の挨拶もだいぶ終盤に近付いてきた。

 やっと終わりかー。と思っているところに、それは起きた。


「最後に、私はこの新入生の中で一人、思いを伝えたい人がいます」

「え……?」


 周りがガヤガヤし始める。女子は「きゃー」と黄色い歓声を上げ、男性は「俺だな」「俺だろ」「俺に決まってる」「なんだとー!」と喧嘩を始めてるところもある。

 まあ、そりゃそうだろ。あんな美人さんからの直接アプローチなんて夢のようなシチュエーションだ。俺は高校で女性関連で痛い目にみてるけど……。

 だから、嫌な予感がした。あ、これ、いつものパターンだと。

 よし、誰にも気づかれないようにこっそり帰ろう。もし気づかれても「体調が悪くなって」と言い訳すれば……。


「冴木束咲くん!」

「……」


 いや!まだ同姓同名の冴木束咲さんかもしれない!いやー、アナタも冴木束咲って名前なんですか?偶然ですね!じゃ、俺は帰ります!


「何をやっているんですか?早く登壇して下さい。そこでこっそり帰ろうとしている冴木束咲くん?」

「……うす」


 はい。俺で確定ですね。

 俺は諦めて壇上へと上がる。

 大空さんはニコニコと上機嫌にこちらを見て笑っていた。おい!早く帰ってゲームやりたいんですけど!


「やっと会えた……」

「え……」


 心の中で怒り狂っているところに、大空さんがボソッと呟く。な、なんて?


「やっと会えた!つーちゃん!」


 大空さんはこれ以上ないと思うほどに嬉しそうな笑顔で俺に抱きついて来た。

 え?え?ちょ、え?


「「「「「え?えええええええええ!?」」」」」

「いや、待ってええええええ!?」


 思い出せ。この人と会っているなら思い出すんだ。そういえばつーちゃんって呼んでたよな……。

 ……つーちゃん?


『つーちゃん!』

「あ」


 思い出した。


「もしかして、ソラ?」

「うん!」


 マジか……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る