第27話 バレンタインは俺だけ勝ち組。

 バレンタイン。

 それは、異性へ自身の愛情や感謝を伝える日。

 ほとんどの男達は醜い争いをする日。

 俺はそんな日で……。


「冴木くん!バレンタインチョコ、あげるね!」

「お、おう……」


 めちゃくちゃチョコをもらっていた。

 こ、これで12個目……。

 もうすでに食べる気力が無いんだが……。

 そして隣でとんでもない殺意をガン飛ばししてるバカが一人。


「束咲あああ!この野郎おおお!」

「お、おい。そんな殺意を向けられると思わず殺しにかかっちゃうかもだからやめろって……」

「何だその暗殺者みてえな発言……」


 悠輝は殺意を放ったまま俺を睨みつける。

 そのおかげで、周りの奴らがギョッとしてあからさまに悠輝を避けている。

 お前、そんなんだからモテないんだよ……。

 俺はそう思いながらため息を吐いて席から立つ。


「あ?どこ行くんだよ」

「廊下」

「何で」


 俺は廊下の方に指差す。

 そこには、チョコを持ちながら俺を見てソワソワしてる女子が目測20人ほど。

 明らかに俺に渡すつもりなのだろう。あ、ちなみに安奈からは朝イチで貰いました。

 別に貰わないで良いんだが、それだと後で死ぬほど追いかけて来るから怖えんだよ……。

 悠輝は廊下の方を見ると、さらに強い殺意の籠った目で俺を見た。

 お前、そんなんだからモテねえんだよ……。


♢♢♢♢♢♢


授業中──。


「……さ、冴木……。机の上のそれ、どうにかならないか?」


 先生が言っているのは、俺の机の上にある大量のチョコのことだろう。

 今年は想定よりも50個ほど多かった。まさか一年全ての女子からバレンタインチョコをもらうとは思わなかったし……。

 おかげで俺のバッグはキャパオーバーである。

 俺は「くっ!」と悔しそうな表情で首を横に振る。

 ……何だろう。俺って席が一番前なんだけど、背中からビリビリと全男子生徒の殺意を感じる。


「そ、そうか。まあ、どうしても無理なんだったら俺が袋やるから」

「先生。神ですか?」

「ちゃうわ。袋欲しいんだったら、後で職員室来いよー」

「ういーっす」


職員室──。


「冴木くん。私のバレンタインチョコ、受け取ってくれるよね?」

「あ,私のも!」

「あ、あははは……」


 なんか女性教員からもめっちゃチョコ貰うんですが……。

 俺は苦笑いしながら受け取る。


「あの、他の生徒にもあげるんですよね?」

「もちろん!」

「そうですか……」

「ほら、これ!」

「……」


 女性教員が自信満々に取り出したのは、10円で買えるチョコが大量に入っているもの。

 俺は思わず俺に贈られたチョコと見比べる。

 俺のは明らかに手作りなのに、他生徒に配るチョコは10円チョコ……。

 え、ええ……。


「冴木、お前も苦労するなあ……」


 俺は先生から袋を貰い、そのまま教室に戻った。


♢♢♢♢♢♢


昼休み──。


「私が先に渡すのよ!」

「いや、私よ!」

「ほら退きなさいよ!」


 なんか、俺の席の前で、150人ほどの女子たちが争いを始めているんですが……。

 殴り合いに勃発しそうな雰囲気もあるし……。

 俺は悠輝の席の方を見る。

 アイツは食堂で昼を食べるって言ってたからいない。

 なら、とある人の助けを待つしか無いでしょ。

 そうして待って10分ちょい。


「こら、お前ら!何をしてる!」


 そう。騒動を聞きつけた先生である。

 先生は女子の人数の多さに狼狽えながらも女子の喧嘩の原因は分かっているようで、「ほら、さっさと並べ〜」と女子達を整列させ、ついでに俺の机に新しいどデカい袋を渡してきた。

 うわあ、絶対これでも入りきらねえ……。

 俺は引き攣った顔で、バレンタインチョコを受け取った。


♢♢♢♢♢♢


放課後──。


 昇降口の下駄箱。

 バサバサバサっ!バサっ!


……………もう良いよ!


♢♢♢♢♢♢


 俺が家に帰ると、いつもアメが出迎えてくれる。


「にゃー」

「アメ、ただいま」


 俺はアメの頭をそっと撫でて、キッチンへ向かい、大量のチョコを置く。

 このチョコは食べません!異物が入っている可能性があるからです!

 あの子らを疑うつもりは無いけど、毎年いるんだよなあ。

 髪の毛入れたり、唾液を入れたりする変態が。

 と、甘い匂いに釣られたのか、アメは興味津々にチョコの入った袋をスンスン嗅いでいる。


「アメ、ダメだぞ。お前には毒だからな」

「にゃー」

「代わりに、はいこれ」


 俺は冷蔵庫からアメ用に作った特製キャットフードを取り出す。

 少し甘めの味にしてるからチョコに味は似てるかもな。

 俺があおのキャットフードを床に置くと、アメはかぶりつくように食べ始めた。

 腹減ってたのかな。

 俺は少し笑いながら、スマホを取り出す。

 俺はチャットアプリを開き、瑠実とのやりとりを見る。

 そこには、もうすぐこちらに着くというメッセージが表示されていた。

 俺はゴクリと喉を鳴らす。


 俺にとっての本番は、これからだ。

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