第26話 男がチョコを贈って何が悪い!

「さて……」


 瑠実から電話が来てから数分後、俺はキッチンでカカオと睨めっこをしていた。

 その原因はただ一つ。

 瑠実に贈るバレンタインチョコの構図が中々思い浮かばないのだ。

 あいつ、辛いものが好きだし。


「辛いチョコなんて想像つかねえ……」


 そう。チョコは甘いものであって辛いものではない。

 これに関しては、辛いチョコを作ろうとしている俺が変なだけなんだが。

 とにかく、バレンタインが明日まで迫っているにも関わらず、ここまで引き伸ばしてしまったのは後悔しかない。

 けど嘆いている時間すらないのだ。

 ん?そもそも男がバレンタインチョコを贈るのは違うって?

 ほ、ほら!多様性ってやつだよ!

 ……本音を言うと、ホワイトデイに返すのが面倒臭いだけだ。

 俺は顔だけはいいらしいからな。

 バレンタインは毎年死ぬほどもらってる。その度に男子の殺意が籠もった視線も貰うが……。

 ちなみにホワイトデイは毎年誰にも返してない。

 当たり前だ。毎年30個ほど貰うのに、そんな多人数をいちいち覚える訳が無い。

 返したら返したで戦争が起こるし……。

 父さんは俺と顔が似てるからこの気持ちが痛いほど分かるらしい。

 イケメンって大変だなあ……。

 とにかく、今は瑠実に贈るバレンタインチョコを考えなければならん。

 辛いチョコ……。辛いチョコねえ……。

 一応悠輝にも聞いてみたが。


「あ?辛いチョコ?聞いたことねえよ。ググれ」


 と、言っていた。

 とりあえずその足を踏んでやった。

 で、一応ネットでも調べてみたがそんなものは見当たらなかった。

 一体どうすればいいのやら……。

 俺が分からずに頭を捻っていると、突如として電話が鳴る。

 誰だろうと思い、出てみると──。


『束咲くん!辛いものを求めてるんじゃない!?』

「あんたは一体なんなんですか……」


 電話をしてきたのは激辛ラーメン店の店主さん。名前は望月香菜もちづきかなさんという。

 あのラーメン店の常連に不本意ながらなってしまい、香菜さんと半ば強制的に連絡先を交換した。

 この人、辛いものにはめっちゃ敏感なんだよなあ……。

 けどまあ、優しい人ではあるから何とも言えないんだよな。

 あ、この人なら辛いチョコの作り方が分かるかも知れない……!


「香菜さん!辛いチョコの作り方って分かりますか!?」

『辛いチョコ?知らないわねえ……』

「そ、そうですか……」


 俺は声からも分かるぐらいあからさまに肩を落とす。

 香菜さんが知らないなら誰も知らないだろ……。


『ま、まあまあ!辛いチョコが作れないからって、そんな落ち込まないで!』

「香菜さん……」


 俺の声を聞いて察したのか、香菜さんは慌てたように励ましてくれる。


『チョコってことはバレンタインでしょ?けど、チョコってことに縛られないで。大事なのは、相手に喜んでもらうことなんだから!』

「香菜さん……!……それが言えて、何で彼氏の一人も出来たことが無いんですか?」

『う、うるさいわよ!』


 なんとなくイジりたくなってイジったが、香菜さんには効果が強かったらしい。

 俺は必死になる香菜さんに思わず笑ってしまう。


『あー!笑ったでしょ!サイテー!この人でなし!女の敵!』

「そういうとこっすよ」


 そういうところが彼氏ができない要因でしょ。

 けどまあ、相手に喜んでもらうことか……。

 なら、アレしかないでしょ。


「香菜さん、ありがとう御座います。なんか分かった気がします」

『え?あ、うん。そっか。ガンバレ!応援してるゾ!』


 電話越しではあるが、それでも香菜さんが親指を立てていることがわかる。

 俺は「ありがとうごさいました」と言って、電話を切った。


「……さて」


 俺はそのまま、外へ足を向ける。

 とあるものを買いに行くために。

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