不死者が望む戻らない死
流幻
出会いと修行編
終わりの始まり
目が覚めるとベッドに横たわっていた。
ログハウスのような小さな小屋のようだ。
ドアノブが回る音がしてローブを纏った爺さんが入ってきた。
一目見て日本人では無いのは分かる。
手招きをして何か言っているが言葉が理解できない、今まで聞いたことがない言語だ。
粗末な木のテーブルの上にコッペパンと小さいステーキ肉と真っ赤なジュースが置かれていて彼が何か言っている。
口に手を運ぶジェスチャーしているし多分食べろということだろう。
のどが渇いていたのでジュースを一口。続けてパンと肉をありがたく頂いたけど正直美味くない、パンも肉も堅いしジュースも生臭い。
僕の名前は「
40歳で独身の小太り男性で友人からは人生オワタ君と呼ばれている。
しかし人並みに交友関係はある方で今日も友達とキャンプに来ていた。
川で水遊びをしていたら滑って転んで頭を強打し川に落ちた、沈んで行く体を動かそうと思っても動かない。
水に映る日の光が綺麗で(あぁ死ぬのかな)と思った、でも死にたくない……で気が付いたらここにいる。
きっと彼が助けてくれたのだろう。
一緒に来ていた友達はどうしたのかと思っていたら小さく低い声で囁かれた。
「森の中で死なれると魔物が増えるから住民が困る」
(あれ?言葉がわかるぞ?ん?魔物?もしかして妄想ジジイなのか?)
「あのー魔物って何ですか?」そう聞くと窓の外を指さした。
目で追うと見たことないデカさのコウモリのようなものがいた。
窓から見えるだけで4-5匹いる。
「あれに噛まれると麻痺毒で動けなくさせられたうえに数分で血を抜かれてミイラのようになるぞ」
その言葉が終わる前に気が付いた魔物が1匹窓に向かって飛んでくる。
僕は恐怖で言葉もなく崩れ落ちてしまった。
「ここは私が結界を張っているから安全だ」
いつの間にか爺さんの隣に二人の男がたたずんでいた。
声を発したのは水色の腰まである長い髪に水色の瞳の180センチ以上ありそうなスラリとした漫画にいそうなイケメン。
「黙りなさい、アイゼン。この者もお主達と同じく特別なものなのだ」
爺さんに言われるとアイゼンと呼ばれた青年は僕の全身を上から下まで観察した後に無言で背を向けてしまった。
「この人間の血の匂いにひかれて寄ってきたか、俺が片付けてきます」
もう一人の男が爺さんに向かって言った。
身長はアイゼンと同じくらいで髪は燃えるような赤色の短髪、眼帯をしているが片目も赤色。
腰に普通の剣もあるけど背中に大きい両手剣を背負っている。重量挙げ選手のようなムキムキに鍛えられた筋肉は服を着ていても分かる。
「シェス、行きなさい」
爺さんの言葉を聞くと「ハッ」と返事をしシェスという大男は扉のほうへ歩いて行った。
音もなく外へ出ると先ほど窓に飛び掛かってきた一匹の首を剣を抜いた流れで切断した。
人間の存在に気が付いたのか他の魔物が一斉に飛び掛かる。
手にしている剣の刀身が赤く発光し炎を纏うと魔物に向かって横一線に振りぬく。
その炎に触れた魔物たちは激しく燃え上がり死体も残さずに消えた。
その場で微動だにしないシェス。
数秒の静寂の後に剣をしまい最初に切断した魔物の首を手に持つと小屋に戻ってきた。
「魔物の気配はこれだけのようです、皮と牙を町で売りましょう」
爺さんに報告すると僕のほうに歩み寄り魔物の首を投げてきた。
「この魔物はそこそこ強い、俺たちが居なければ近隣の町にも被害が出ていただろう」
魔物の首とか近くに投げないでくれよ……と思った瞬間
魔物の首が動き出し爺さんに向かい飛んで行くのが見えた。
反射的に手を伸ばしてしまい思い切り腕をかまれた。
これ、毒があるんだっけ?結局死ぬのね。
「安心しろ、牙は血を吸うだけで毒は爪にしかない」そう言いながらアイゼンが魔物の首を剝がしてくれた。
シェスとアイゼンは顔を見合して、なぜ手を伸ばしたのかと僕のほうを見て聞いてきた。
「爺さんには助けてもらったし、食事ももらった。怖かったけど反射で体が動いていた。誰かが傷つくの嫌だから」
答えを聞いたシェスはさらに質問してきた。
「首だけになっていたとは言え普通は人間が反応できる速さではないはずだ、見えたのか?」
「一応、柔道と剣道の経験あるから何となく」僕はそう答えた。
アイゼンは一人で目を閉じ「私たちと同じ特別な……」と繰り返しつぶやいていた。
漠然と分かっているけど僕は一応聞いてみた。
「ここって地球ですか?」
「マスターが言っていたが本当に異世界人だったのか、ここはグリア、お前の元居た世界とは違う」
やっぱり異世界か。異世界物の漫画とかは何度か読んでるから興味はあったけどグリアって聞いたことない。
それにあんな化け物が居たら対応できないし日本に戻りたいな、方法あるのかな?この後どうしようかと考えていたら爺さんが近寄ってきて軽く自己紹介をしてくれた。
爺さんの名前はウェイズ・ムール。レグリアという組織のトップ。
組織の人間は彼のことをマスターと呼ぶようで少人数だがかなりの猛者集団らしい。
シェスと言われた青年はシェフィール・ブリアドー。レグリアの剣と言われていてマスターに敵意を持つものを排除する役目。
アイゼンと言われた青年はセシル・アイゼン。レグリアの盾と言われ命令時以外はマスターの側を離れず護衛する役目だそうだ。
目的はあるけど急がないので退屈しのぎにいろんな場所を旅しているとのこと。
爺さ……ウェイズは紹介が終わるとあとは二人に聞けと言い残して別室に入っていった。
そこから僕はいくつか聞いていった、話は大体こんな感じだ。
地球へ戻る方法はあるか分からない。
食料は基本的に地球と同じで魔物の肉とかあるけど普通に肉と思えば良い。
仕事は多くが農家や漁師で自給自足、余ったら売る。力があるものは魔物狩りや依頼をこなす冒険者にもなれる。
魔法はある程度厳しい修行が必要で一般人は魔法が込められた護符や魔法石などで発動がメインになるがすごく高額。
種族は人間・エルフ・ドワーフ・獣人・小人・亜人の6種族で関係は一応良好。ただ過去に人間と亜人、エルフと獣人、ドワーフと小人が争っていたためまだ火種はある。
異種族間の結婚は可能だが子供は人間か同種族の間でしかできない、例えば人間とエルフに子供は出来るがエルフとドワーフは結婚できても子供は出来ない。
亜人に関しては特殊で人間とそれ以外の4種族の間に出来た子供を亜人という。亜人が子供を作るには人間か同種の亜人のみとでしかできない。
言語はいくつかある、基本的には人間と亜人が使う共通語が用いられる。ほかの4種族の種族言語は他種族では基本的に解読できない。
それと異世界からこの世界に来る存在はそこそこいるらしい。
ここグリアは魔法が存在するため時空のひずみができて異世界と繋がりやすいそうだ。
注意されたのはある程度親密になるまでは自分が異世界人であるとあまり公言しない方が良いとのこと。
異世界から来た人間は身寄りがないため犯罪に巻き込まれる確率が高くなるようだ。
夜も遅くなってアイゼンはウェイズの入った部屋へ。
シェスは僕が目覚めた部屋へ案内してくれた。
「一人では不安だろう、朝まで一緒にいてやる」と言い壁を背に座り込んだ。
僕が雑魚寝でいいからベッドで寝るようにシェスに言うと、お前は客人だからと固辞された。
疲れと緊張のせいもあり目を閉じると落ちるように寝てしまった。
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