激戦を終え、勇者たちが荒い息を整えていると、周囲の影が静かに動き出した。

「待て。これ以上戦う必要はない。」暗闇の中から、威厳ある声が響いた。

声の主が姿を現すと、その異様な風貌に、勇者たちは一瞬息を呑んだ。見上げるほどの巨体に、漆黒の羽を持つ、威圧的な雰囲気をまとった魔界の住人だった。しかし、その瞳には冷たい光ではなく、どこか興味深げな色が宿っている。

「君たちは人間だろう？ここまで戦い抜いてきたとは、なかなか面白い。」その魔物は鋭い目で彼らを見つめた。「この魔界に来た目的は何だ？」

「俺たちは…訓練のために来たんだ。強くなるために。」ライアンが疲れた表情で答える。

「なるほど。ならば、これ以上は追撃しないとしよう。」魔物は腕を組み、ふと考え込んだように言葉を続けた。「お前たちがどれほどの者か見てみたいが、まずは傷を癒すがいい。戦士には休息も必要だろう。」

エレナが驚いたように問いかける。「休息…って、許してくれるの？」

「そうだ。力を持つ者には、敬意を払うのが我々の掟だからな。」彼はそう言いながら、振り向いて指をさした。「我が集落へと案内しよう。そこなら安全だ。」

勇者たちは少し警戒しながらも、お互いに頷き合い、彼の後について歩き始めた。険しい道を進むことしばらく、彼らの目の前に現れたのは、岩肌に作られた不思議な集落だった。建物はすべて黒い石でできており、どこか異国めいた装飾が施されている。魔物たちがちらちらと彼らを見つめていたが、誰も襲いかかる気配はなかった。

「ここが我々の拠点だ。安心していい。今夜は戦いもなく、ゆっくりと休めるだろう。」案内してくれた魔物が微笑みを浮かべた。

「信じていいのかな…？」ソフィアが戸惑いの表情を見せるが、疲労も限界に達していたため、彼女はそれ以上何も言わなかった。

「感謝する。正直、休める場所があるなんて思っていなかった。」カインが深々と頭を下げる。

魔物たちの集落で、勇者たちは暖かい炎に照らされた静かな場所を与えられた。疲れ切った彼らは、ようやく肩の力を抜き、しばしの安らぎを得ることができた。レオが焚き火を眺めながら、ぽつりと呟いた。「こういう敵がいるって、ちょっと不思議だな…でも、なんか安心するよ。」

「うん…この魔界にも、少しは優しさがあるのかな。」エレナが微笑んで同意する。

魔界での過酷な試練の中、彼らはほんのひとときだが、心と体の安らぎを取り戻したのだった。