第26話
そのとき、突然席を立って頭を下げる大島香織が目に入った。
「ごめんなさい! 御剣さん、渋谷くん!」
なぜか俺より先に謝ったのは、彼女だった。
「最初に言いだして、こんな騒ぎにしたのは私だったね。確かに渋谷くんの言う通り、御剣さんが一週間前に女子の制服着てこなかったら、なにも言ってなかったと思う。それってなんか変だよね。それと……女子と同じ部屋で辛いのも、そうかもしれない。御剣さんの気持ちをちゃんと考えてなかった。ごめんね……」
すると、お調子者の井澤も立って頭を下げる。
「いや……最初に言い出したのは俺だったよ。俺もごめん」
――そうだ。最初にけしかけたのは大島さんじゃなくお前だ、井澤!
でも俺は怒っちゃいない。お前は話し合ういいきっかけをくれたんだからな――。
そして皆が沈黙する中、クラス代表でもある大島が最終確認に入る。
「みんな、どうかな。私は渋谷くんの話を聞いて、御剣さんは渋谷くんと同じ部屋でもいいかなって思えたんだけど、それでいいかな? 反対意見のある人は言ってね」
その言葉に、皆が沈黙と頷きで賛成を示した。俺の演説が功を奏したのだろうか。
すると、教室の脇に座りずっと黙って聞いていた担任教師が険しい表情で口を開いた。
「まあ、クラスのみんなが分かり合えることはいいんだがなぁ。しかしな。せっかく助けに来てくれた、生徒会長を泣かせちゃいかんだろ。渋谷も言いすぎたんじゃないか?」
そうだった! 生徒会長をほったらかしだった!
このままではまずいと思った俺は、前に移動し生徒会長に頭を下げる。
「すいません。ちょっと強く言ってしまって」
「うっ……。ひっく……。怖かった……」
「ごめんなさい。言いすぎました」
「……ほんとにそう思ってる?」
「思ってます。反省してます。すいませんでした」
「でも、言葉だけじゃ信じられない」
――なんだ、この面倒くさい生き物は。でも可愛い。
だが、みんな注目してるし早くこのやり取りを終わらせないと――。
「そ、それじゃ、なんでもしますから言ってください」
「……ふふふ。言ったねぇ」
「え?」
「今、『なんでもします』いただきましたぁ」
そう言って、顔を上げた生徒会長はしてやったりの笑顔だった。
彼女は最初から泣いてなどいやしなかった。完全に俺より一枚上手だったのだ。
そして、そんな彼女が告げたミッションはとんでもないものだった――。
「それじゃ、修学旅行の自由時間、私とデートね!」
――それは駄目だろ――。
と返そうかと思った矢先、大島香織や美琴を含めた複数の女子、そして玲央が一斉に立ち上がり叫ぶのだった。
「「「「「それは駄目ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」」」」
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