第33話 有名税

 ネットでバズっていたあたしたちの対決は想像以上の反響を呼んでいた。


 会場組のドルオタが動画を拡散したこともあり、その認知度は下手をすれば日本でも屈指のレベルとなる数字を叩き出していた。こんなこと、前世の時には絶対に起こり得なかった。どれだけJKが好きなんだよ。


 正直複雑な気がしないでもないけど、まあ、今さら亡くなる前の人生を気にしたところでどうしょうもない。


 ネットのトレンドでは「由奈ちゃん」と「楓花ちゃん」がトップに上がり、ビアンカとフローラ論争並みに不毛な争いが起きているみたい。


 その影響もあってか、なぜかあたしたちの対決はスポーツ番組でたびたび取り上げられるようになった。


 その理由は分かっている。


 日本人は、結局のところJKが大好きなのだ。


 極端な話、制服を着たかわいいピッチャーのJKがそこそこ速い球を投げれば、それだけでメディアは喰いつく。そこに需要があることを知っているからだ。


 前世で世間一般の注目を集めるのを苦労したのもあり、こういう流れでバズったり注目が増していくのは正直なところ複雑だった。


 ただ、注目もされないよりはされた方がいい。それが歪んだ形であったとしても、そこから競技を好きになってくれる人が少しでも増えてくれればあたしの勝ちだ、と思うことにしている。


 調子に乗ったテレビから歌手デビューやらアイドルばりの握手会を打診されたものの、全部断ることにした。多分、天城楓花も似たような感じでお断りしていることだろう。科学的には証明しようもないけど、前世で現役バリバリの男子ボクサーであったことを知ったらかなりの男性ファンが地獄に落とされた気分になる。


 それであたしたちの人気はブームと言っていいほどの勢いになったけど、それに伴って望ましくない現象も起きるようになった。


 さすがに昨日まで無名だったJKが大した努力もなく蝶よ花よともてはやされたのが気に入らなかったのか、あたしたちに関して否定的な意見というか、もっと端的に言えば誹謗中傷めいた書き込みや呟きをする人まで出てきた。


 昨今は特にこの誹謗中傷が無くならないって話題になっている気がするけど、それでもやめない人が一定数いるのはどういうことなんだろうと思う。


 ともあれ、あたしや天城楓花までが誹謗中傷のターゲットになるとは思いもしなかった。こういうのがあるから一番になりたがらない人が増えているのかな? とも思った。


 内容は賞賛されている試合内容とセットになったものだった。


 一方であたしたちの試合が「プロも含めて女子ボクシング史上最高の神試合」と言われているのに対して、「こんな女子がいるはずがない。こいつらは薬物でズルしているか、本当は男に違いない」といった意見もあった。


 それを知った時、なかなかネットの民も見る目があるな~と思った。


 だって、あたしの前世は男だもん。


 入れ物が女性っていうだけで、中身は記憶を保持した世界ランカー。輪廻転生が一般的に存在する現象かどうかまでは知らないけど、女神の采配(?)であたしと天城は前の記憶を持ったまま今を生きている。


 それはつまり、前世の死ぬ気で習得してきた技術を新しい人生で引き継いでいるということだ。それがチートと言えばたしかにチートなんだろうなとは思う。


 でもね、少なくともあたしは努力したんだよ。君らと違ってね。


 ……って、そんなことをネットの民に言ったらまた大炎上になるんだろうな。ネット怖い。っていうか面倒くさい。


 どこかで聞いたことがあるけど、こういう誹謗中傷を書き込む人っていうのは逮捕されると「思ったことを書いただけ」とか「みんな言っている」と言い訳するものらしい。


 そんな軽い気持ちで他人を自殺へと追いやるのもどうなんだろうと思うけど、そういう人とは話し合いが通じないのは知っている。


 ――結論。放っておこう。


 人生は短い。


 あたしはこんな奴らの対処で人生を浪費したくない。理由はそれだけだ。


 そういうわけで、いくらネットが炎上してもあたしは見向きもしないことにした。

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