第20話 その先を見据えて

「楽勝だったな」


 引き返す際に佐竹先生が口を開く。


「まあ、そりゃあ……」


 あたし、少し前までジャック・ザ・リッパーって呼ばれていましたからね、とは言わない。


 肉体が変わろうが、魂に刻まれた技術は死なない。それをそのまま体現したかのような試合になった。


「私の強さはこんなもんじゃないってか。頼もしいな、おい」


 勝手に都合のよい勘違いをしてくれた佐竹先生が、あたしの背中をバンと叩く。


「ちょ、痛いですって」

「お前、やっぱり天才だわ。オリンピック目指せよ」


 佐竹先生は割とマジなトーンで言う。


 オリンピックって言ったら前世でも行けなかった魔窟みたいな大会だけど、今の状態ならたしかにそれほど夢でもない気がする。


 女子ボクシング……なんかオリンピックで性別問題があったから複雑な思いも出てくるけど、少なくともあたしは生物的な違反はない……はず。そう考えると、オリンピックで金メダルを目指すチャレンジもいいかな、なんて思ってしまう。例の金メダリストと闘ってやろうか。


 テンションの上がってきたあたしは、佐竹先生の呼びかけに答える。


「はい。でもまずはインターハイ優勝が目標なので、それまでは試合に集中したいと思います」

「よし。その意気だ。絶対に優勝するぞ」

「はい!」


 そうか、オリンピックか。


 それはなかなか楽しみな目標が出来たな。


 新たな目標が出来て、あたしの情熱はまた燃え上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る