塩対応の2人

夕緋

塩対応の2人

 どんなに容姿が良くても愛想が良くないと人は近づいてこないんだなぁ、と怜人を見ながらぼんやり思う。

「用もないのにじろじろ見るな」

「あぁ、はいはい」

 長い睫毛に縁どられた瞳はつぶらで、緩くウェーブするその髪は正直可愛らしさを引き立てている。間違ってもそんなこと本人には言えないが。

 それにしても一見すればアイドルかと思うような顔でここまで凶悪な表情をできるのはある種才能なんじゃないかと思う。

「だいたいお前はなんで俺につきまとうんだ。迷惑だと何度も言っているだろ」

「いや、ほら。怜人といると人が近づかなくて楽だから」

「性悪め」

 顔と声が一致しないレベルのドスの効いた声で吐き捨てられたが、事実だし、事実以外を言ったらそれはそれで不機嫌になるのが目に見えている。

「だいたいお前も人に近づきたくないなら、誰かれ構わず愛想を振りまくのをやめれば良いだろ、優しい方の王子様」

 皮肉たっぷりに言われてしまった。”優しい方の王子様”とは近くの女子校での呼ばれ方だ。この学校内では怜人は王子様扱いされていないので、僕だけ王子様ということになっている。

「だってほら、嫌われるのとか怖いじゃん。何されるか分かんないし」

「じゃあいくらでも愛想振りまいて仲良しこよししてればいいだろ」

「あんまり距離を近づけすぎてもねぇ。嫉妬とかされたくないし。ちょっと高みの存在だと思われてた方が楽」

 怜人は男にしては小さく可愛らしい口で舌打ちをする。本当に見た目と言動が似合っていない。だから怜人の近くにいるだけで僕は近づきにくい人になる。いざ話しかけられた時に怜人ほどの塩対応はしない、というかむしろ怜人と比較されるおかげでちょっと優しくしただけで神対応と言われてしまうから、好感度はそれなりにある。

「まぁ、これからもよろしく、怜人」

「勝手によろしくすんな、腹黒王子」

 腹黒はさすがに言い過ぎだと思ったけれど、流しておく。

 けれど、目に見えて人を拒絶してる怜人と、愛想笑いしながら心の中では他人が害にならないように調整している僕と、腹の中が分かったらどっちの方が塩対応なんだろう?

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