神の謝罪相手はモノ作る

いぎたないみらい

第1話 「もうやだ叫ぶ!!」

「号外号外ーーーー!!!!」


 新聞を辺りにまく記者を、群衆が取り囲んでいる。


「あの救世主様が!ついに!!魔王を討ち倒したぞーー!!!」


 記者の叫びを皮切りに、世界は歓喜と安堵に包まれた。




* * * * * * * アルビテル王国 王城 * * *



「――救世主殿。この度は魔王を討ち、世界を救ってくれたこと、まことに感謝する」


 王座に座る穏和な顔をした国王が、目の前に跪く彼女にそう言った。


「したがって貴殿には、この国での爵位と土地を与えよう」

「――――いえ。結構です」


 城内が静まり返る。

 国王は引きつった顔で、救世主の彼女に問うた。


「けっ……、…結構、と、いうのは…?」

「爵位も土地もいりません。その代わり、2つ。欲しいものが御座います」


 国王は考えた。


(彼女は異世界から召喚された者。ゆえに我らの望むものを、彼女も望むとは言えない。現に爵位をいらない、と言ったのだ。一体、何を望むことやら……)


 世界を救ってもらった礼をしない訳にはいかない国王は言う。


「訊こう。救世主殿は何を望まれるのか」

「はい。私は自由と、[魔瘴の森] での居住権をいただきたく…」

「なっ……!!?」


 あり得ない要望に、国王は思わず立ち上がる。


「魔瘴の森だと……!?」

「あの森に住むと言うの…!?」

「いや……彼女ならあるいは……!」


 城内がざわめく。


「なっ!なにゆえ!なにゆえそのようものを望むのだっ……!?」


 国王にとって [魔瘴の森] で居住するなど、思い付きすらしないことだった。


―――魔瘴の森。

 かつて悪魔たちが愛した、魔物と瘴気が蔓延る禁域。

 その森に足を踏み入れるには高い魔力と強い精神が必要であり、高位の神官や大聖女でなければ立ち入りの許可すら得られない。


 救世主はそんな場所に住む権利が欲しいと言うのだ。


 彼女は国王の問いに答える。


「………――私は…。ある日突然、この世界に救世主として招かれ、救世主として、この世界を救うことを強いられました」


 救世主は目を伏せ、静かに語る。


「みなさまのご協力の下、言語を習得し、魔法の訓練、この世界に関することや作法の授業を受けました。その後は諸国の結界の展開に、魔王討伐……」


 誰もが彼女の声に耳を傾ける。


「これらのことは、私の精神と身体を疲弊させるのには十分でした」



「だから、もう……。休ませてください…」

「…っ……救世主殿」


 国王や貴族たちは、震える彼女を申し訳なさそうな目で見つめる。

 救世主はうつむき、訴える。


「…私……っ。私っ……人が多いとこ無理なんですよぉぉぉーー!!」



 ――――その絶叫は、国中に響き渡ったという。

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