1シーズン 第八話 孤独な殺人者
「一旦、状況を整理しておきましょう。」
そう言って北山は無人の図書館を借りて新田にこれまでの状況を整理して説明する。
「まず、彼女が帰宅した時間が午後十時十分です。その後、自転車で十分かけてレンタル屋へ向かい映画を一本借りて、十時三十分に帰宅。
近隣住人の証言により十時三十五分には彼女の家の明かりは付いていたとの事です。一方、成田さんの死亡推定時刻は午後十時五十分。
つまり、彼女が犯人だと断定するならば十時三十五分から十時五十分までの間に自転車で学校まで戻り、職員室まで歩いて、塩酸をコーヒーの中に入れて殺害する。とても十五分では出来ません。新田さん、家から学校まで自転車で片道二十分はかかるんですよ。とても現実的な推理とは考えられません。そもそも塩酸は保管庫に保管されています。それを持ち出すには化学室長である山本先生が鍵を開けるしか方法はありません。」
すると新田が割って入ってきた。
「山本先生は彼女と深い関係にあったんだよ」
すかさず北山は反論する。
「でも、保管庫から持ち出したって証拠が出なければ言い逃れされちゃいますよ。」
新田はしばらく黙ったまま椅子に座って考察していた。そしてゆっくり立ち上がり、
「化学室行ってくる。君は着いてこなくていい」
と言って図書館を出て行った。
化学室に入ろうとすると、今まさに家に帰ろうとしていた渡辺実里と遭遇した。新田は彼女に慌てて声をかけた。
「あ〜、今からお帰りですか?」
実里は警察が来たから長くなりそうと言わんばかりに面倒な顔つきで答えた。
「えぇそうですけど、何か?」
新田は彼女に頼み事をお願いした。
「すいません、お帰りのところを申し訳ない。二つだけお願いします、すぐに終わります。薬品が保管されてる保管庫ありましたよね?持ち出す時、記録か何か取ってあります?」
「えぇ、取ってありますよ。ちょっと待っててください。」
実里は部屋の奥へと進み、その後記録用紙が挟まってあるバインダーを手に持ち戻ってきた。そのバインダーを新田は受け取り、こう言った。
「これ、全部正しく記載されてます?」
そう聞くと実里はこう答えた。
「いえ、実は昨日保管庫から塩酸が無くなったんです。空になってるってことはないです、私半分以上容器に入ってるの見ましたから。」
「どうして無くなったって気付いたんです?」
「保管庫の鍵は山本先生が一括で管理されていて開けることはできないんですが、扉がガラスなので開けずとも中身は全部見えるようになってるんです。」
「その日、山本先生の他に誰か使おうとしたの?」
「はい、3学年の井上先生です。次の日の授業で扱うので容器を確認したら、無くなってたんです。確か夕方五時ごろだったかしら。」
新田は最後の質問をぶつけた。
「最後です、本当に最後。これ聞いたら帰ります。その頃、山本先生はどちらへ?」
実里は新田への質問でこう返答した。
「どこだったかしら?確か、『ファーディン』ってお店だった。カフェです。ほら、こんな感じの」
そう言って実里は携帯でお店のサイトを開き、ペーパーカップに入ったコーヒーの写真を新田に見せた。新田はニヤリと笑い、彼女に礼を言った。
「ありがとう、君のおかげで事件解決出来そうだ。ごめんね長い時間を。ゆっくり休んで」
実里と別れた新田は、北山の待つ図書館へ向かった。
「明日、彼女を逮捕するよ。」
すると、椅子に座っていた北山はバッと立ち上がり
「十五分の謎、分かったんですか!?」
と聞くと、新田は満足気に頷いた。
さぁ、たった十五分で川口百美はどうやって被害者を毒殺したのか?真相編は次の回で。
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