第9話 さくれつ!スマッシュミサイル
善信と一緒に体育館に到着すると暫くして部長から招集の合図がかかった。
「ほーい集合! 今日もいつも通り大会メンバー中心の練習な。ちなみに秋川と北浦は今日からコート入ってくれ」
「え、俺たちですか!?」
俺の他にもう一人指名された一年生、
「お前ら経験者だし団体戦の補欠としてメンバーに入れようと思ってさー」
「それは嬉しいんですけど、俺ら入っちゃっていいんですか?」
俺も念押しで部長に尋ねる。なぜなら俺らがメンバー入りするということはつまり、団体戦メンバーから漏れる二年生がいるということだ。
「まぁ二年は来年もあるし、団体に出ないやつも個人戦に出れるしな!それよりも俺らは最後なんだから少しでも勝ちたい! ってことでよろしくー」
そうして俺達は早速練習の準備に取り掛かった。
「なんかすごいことになったね」
「だね。でも秋ちゃんは中学時代も地区大会で上位だったんでしょ?」
「まぁ確かにそうだけど、さすがに高校入ってすぐに団体メンバー入るとは思ってなかったよ」
秋ちゃんこと秋川は俺と同じく中学からバドミントンをやっているが、正直俺よりも全然強い。身長は185センチくらいでスマッシュは角度・威力ともになかなかのものだ。こちらが少しでも甘いサーブを打つとすぐにシャトルをネット前で叩き落してくるため、俺たち一年の間では「アジアの壁」と呼ばれている。
ちなみに秋ちゃんのイントネーションは一音目が低く二音目から上がる。ラーメンではなくエビチリと同じイントネーションといえばわかるだろうか。
「そうだよね。まぁうち経験者で入った人少ないみたいだもんね」
男子バドミントン部は三年が三人(一人は幽霊部員)、二年が六人、一年が六人とそもそも人数が少ない。そして実力的にいえば三年の二人と二年の二、三人が割と強くて、他は正直それなりというところだった。
「まぁ、せっかく打てるんだし頑張りますか!」
俺たちはソフトカバーからラケットを取り出しコートへと入った。
*
「よーし、じゃあまず基礎打ちやるぞー。タイマーよろしく」
「じゃあ始めまーす。よーい、スタート」
二年の先輩がキッチンタイマーをセットし、合図とともに基礎打ちが始まった。
基礎打ちというのはペアになってラリーをし、そのラリー中は一種類のショット(技)のみを使い続けるという練習法だ。例えばスマッシュであれば、片方がひたすらシャトルを打ち上げて、もう片方はひたすらスマッシュで返し続ける。タイマーが鳴ったら今度は役割を交代したり別の種類のショット練習になる。
「うわ、速っ!」
さすがアジアの壁。スマッシュの速度もキレも凄い。俺は秋ちゃんのスマッシュをなんとか相手コートへと返す。
「うっ!!」
今度はラインぎりぎりのショットだ。俺はバックハンドで返そうとラケットを振るがそのスピードに追いつかずにシャトルはラケットのフレームに当たり隣のコートへと飛んでいってしまった。
俺が隣のコートのラリーが途切れるのを待っていると
「早く取って。邪魔だから」
そう発したのは俺の左隣で打っている女子バドミントン部の一人だった。ラリーはまだ続いており、金髪のポニーテールがショットのたびに揺れている。バド部にしては珍しいかなりギャル系の見た目だった。
「すみません、すぐ取ります」
俺はすぐさま中腰になりネットあたりに転がっている自分のシャトルを回収して戻る。
(なんか女バドって怖いよな……先輩同士は明らかに仲悪そうだし)
バドミントン部は男子と女子で部が分かれている。コートは四面あるうちの三面は女バド、一面はバドが練習で使えるのだが、それに対して部長はいつも「あいつら弱いくせにコート使いすぎなんだよ」と漏らしていた。まぁ女バドは人数が多いから仕方ないとは思うけど、確かに一面しか使えないのは結構不便だったりする。
それにしてももっと優しく言ってくれてもいいのに……と心の中で俺も金髪ポニテギャルに反抗してみるが、とても直接言える勇気はなかった。
気を取り直して練習に戻る。今度は俺がスマッシュを打つ番だ。秋ちゃんが後ろのラインギリギリまで上げてくれたシャトルをなんとかスマッシュで返す。今度は秋ちゃんがそれをまた上げる。何度か繰り返していたところで秋ちゃんが甘い球を返してきた。
(チャンス!)
俺は一旦軽くしゃがみ込みこむと両足で地面を蹴り思いっきりジャンプし、体を大きく反った。
(金髪ギャルよく見とけよー!!)
中学の頃に大会で使って会場が沸いたことで、それ以来俺の特技になっているジャンピングスマッシュをここぞとばかりに発動させる。
「おりゃー!」
「イタっ!!」
(!!!!!)
「ねぇ! なんなの!?」
力みすぎた俺のスマッシュは秋ちゃんのコートではなく、またしても隣のコートに侵入。しかも今度は金髪ギャルのラリー相手(多分三年生?)の脇腹あたりにダイレクトアタックしてしまった。
「す、すみません!」
「最悪なんだけど。マジ痛い」
「本当にすみません!!」
「もういいから早くシャトル拾ってよ!」
そういうと秋ちゃんが申し訳なさそうにシャトルを拾ってくれた。秋ちゃん、ごめんよ。
(やっぱり女バド怖っ……)
それ以降、俺はコントロール極振りに切り替えて基礎練をなんとか乗り切ったのだった。
*
「ほーい、じゃあ今日の練習終わりまーす。カッパから締めの一言!」
「えー、俺っすか?」
カッパというのは二年生の先輩のあだ名だ。
「えーと、じゃあ皆さん練習疲れたとは思いますが大会に向け――」
「お疲れでしたー!」
「「「お疲れさまでしたー」」」
「えー、俺まだ挨拶途中……」
こんな感じで男バドは和気藹々とした部活である。一方女バドは綺麗に整列して部長の話を聞いている。空気もなんかピリピリした感じだ。
「先輩、女バドって何かあるんですか?」
俺は思い切ってカッパと呼ばれている先輩に尋ねる。
「なんかねー、三年は元々部長同士が仲悪いんだよね」
「何か理由があるんですか?」
秋ちゃんも気になっていたようで話に乗ってきた。
「聞いた話だけど、うちの部長が下ネタ言いすぎて嫌われたらしいよ」
「うわ、しょーもな……」
想像以上にどうでもいい理由だった。
「あと、女バド内部でも経験者組と初心者組で派閥があるっぽい。初心者組は羽根つき感覚で遊びに来てるって向こうの部長が嘆いてた」
なるほど。確かに人数も多ければレベルも違うし温度差もある。しかもバドミントンは団体戦こそあれど基本は個人競技だ。正直手を抜こうと思えば簡単に抜ける。
そうやって話しているとなんとさっきの金髪ポニテギャルがこちらにやってきた。
(ヤバ、もしかして女バドの話してたの聞かれた?)
「アンタ一年だよね?」
「は、はい。そうですけど……」
「名前は?」
「え、北浦翔平ですけど……」
何、俺シメられるの?
「ふーん。アタシは
「え、一年だったの? 先輩かと思ってた……」
すると沢井さんは更に近づいてきて小声で話す。
「先輩が男バドは関わるとロクな事ないって言ってたから色々と気をつけた方がいいよ。まぁアタシは今日のアレちょっとスッキリしたけど。あの先輩やる気全然ないのに態度はデカいから」
んじゃ。と言って沢井さんは他の女子たちのところへ戻って行った。
今日のアレとは俺が女バドの先輩にかましてしまったスマッシュミサイルのことだろう。それにしても沢井さんって口は悪いけど意外に優しいんだな。
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※2024/11/26に改題しました
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