第20話 ファミリーキルの存在がバレたのか?

「い、いえ、昨夜はどこにも出かけないで家にいました。誰か他の方と見間違えたのではないですか?」


 とりあえず僕は陽子の見た者は僕ではないと否定してみた。


「そうですか。でも私が見たのは銀髪の方だったんです。顔は見えなかったのですけど銀髪って日本では珍しいですからてっきりサイファさんかと思ったんですけど」


 陽子はまだ僕のことを疑いの眼差しで見ている。

 確かにこの日本で銀髪の人間は珍しいだろう。他の国の人間の中でもそんなに多くはない。


 あの時陽子が銀髪を見ていたなら僕のことを疑っても仕方ない。だけど顔は見なかったと言ってるから陽子もまだ僕をヴァンパイアと断定できていないのだろう。


 チラリと陽子の視線が自分の腕にある時計型の機械の方を向く。

 ヴァンパイアかどうか見分ける機械が反応しないか確認しているようだ。


 大丈夫。あの機械ではファミリーキルの僕をヴァンパイアと判断できないはずだ。落ち着くんだ。


 緊張で震えそうになる自分自身に「落ち着け」と僕は言い聞かす。


「あら、お姉ちゃん。銀髪は珍しいけどこの世界で銀髪の人間はサイファだけじゃないでしょ? 何でそんな怖そうな目でサイファを見るのよ?」


 それまで僕と陽子のやり取りを聞いていた桜子が口を挟んでくる。

 桜子も陽子が笑顔でありながら鋭い目つきをしていることに気が付いていたらしい。


「ええ、まあ、そうなのだけど……ちょっと確認したいことがあってね」


「確認って?」


「昨夜はその繁華街でヴァンパイア狩りをしたのだけどその場に銀髪の者がいてね。その銀髪の者がヴァンパイアかは分からなかったんだけどヴァンパイアが使うような不可思議な力を使ったのよ」


「それがサイファだっていうの? サイファがヴァンパイアな訳ないじゃない。だってこんな昼間にヴァンパイアは行動できないでしょ? サイファに変なこと言ってイジメたらお姉ちゃんでも怒るわよ」


 頬をぷくっと膨らませて桜子は不機嫌な顔で陽子に抗議する。

 すると陽子は溜息を吐いた。


「それがね。最近入手した情報で昼間に活動できるヴァンパイアがいるらしいって分かったのよ。だからちょっと気になってしまって……」


 その言葉に僕は胸がドキッとした。


 昼間に活動できるヴァンパイアはファミリーキルだけだ。

 もしかしてファミリーキルの存在がヴァンパイアハンターたちにバレたのか。


 ファミリーキルの存在がヴァンパイアハンターの組織に認識されたら僕の正体もバレる可能性が高くなる。


「だからってサイファはヴァンパイアじゃないわ。お姉ちゃんの機械だって反応してないじゃない。それにサイファはとても優しいの。こんな優しいヴァンパイアはいないわ」


 桜子は僕のことを「ヴァンパイアではない」と庇ってくれる。


 そのことは素直に嬉しかったけど僕の中では「優しい」からヴァンパイアではないとは思えない。

 だってファデスもジョセフさんもオスカーさんも「優しい」と僕は思えるから。


「そうね。機械も反応しないし私の勘違いかもしれないわね。サイファさん疑ってしまってごめんなさい」


「い、いえ、僕は気にしてません」


 謝ってくる陽子に僕は心の動揺を悟られないように無難に返事をする。

 どうやらファミリーキルが機械に反応しない存在だということまでは分かっていないようだ。


「じゃあ、桜子。遅くなる前に病院に帰るのよ」


「うん。お姉ちゃんも仕事頑張ってね」


 陽子はそのまま僕たちから離れて行った。


「サイファ、ごめんなさい。お姉ちゃんが変なこと言いだして」


「ううん。気にしてないよ。ヴァンパイアから人間を護るのが陽子さんのお仕事なんだから」


 僕は桜子に陽子の言葉は気にしてないと伝える。


「そうなんだけど……サイファはヴァンパイアのことどう思う?」


「え? ヴァンパイアのこと?」


 桜子の問いかけに僕は戸惑う。


 ヴァンパイアは人間から見たら自分の命を脅かす怖い「化け物」のような存在だろう。

 僕自身はそのヴァンパイアの血を生きる糧にしてるからヴァンパイアから見たらファミリーキルは「化け物」かもしれない。


 化け物のヴァンパイアよりさらに化け物のファミリーキル。

 それが僕だ。


 僕は桜子に「化け物」と思われたくないけどそれが現実。

 そう考えて僕は思わず俯いてしまう。


「私は本当はヴァンパイアと人間ってそんなに変わらない存在だと思うの」


 その時、明るい桜子の声が聞こえた。


 え? ヴァンパイアと人間は変わらない存在だって桜子は思っているの?


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