第28話「好きになってはいけない人」フォンジー視点
フォンジー視点
一ヶ月ぶりに会ったエミリー嬢は、前よりももっと綺麗になっていた。
彼女は王都で流行りの、レースやフリルがたくさんついた愛らしいデザインのドレスを纏っていた。
彼女のハーフアップされた髪に結ばれたピンクのリボンが風にふわふわと揺れる。
メイクも少し大人っぽいものに変えたようで、桃色の口紅がひどく艶っぽく見えた。
馬車から降ろす時、彼女の細くしなやかな指に触れた。
よろけた彼女を抱き止めた時、妖精じゃないかと思うぐらい軽かった。
あどけない顔でニコニコと笑う彼女を愛しく思えた。
彼女は弟の元婚約者で、弟がひどく傷つけた人。
一生かけて償わなくてはいけない人。
守らなくちゃいけない存在。
傷つけてはいけない存在。
絶対に好きになってはいけない存在。
彼女が弟の婚約者じゃなかったら、きっと恋に落ちていただろう。
おかしな話だ。
商売上手で裕福なグロス子爵家の令嬢と、侯爵家の嫡男とはいえ平凡な自分が、弟という天才の存在を介さなかったら、出会うこともなかっただろうに。
彼女には兄のような存在だと言われた。
私が彼女の恋愛対象に入ってないことは明白だ。
彼女にはできるだけ早く帰ってもらおう。
私の気持ちが抑えられたくなる前に。
それに、彼女の才能をこんな片田舎でくすぶらせるのはもったいない。
王都に帰ったら彼女にはお見合いの話が山ほど来るだろう。
気立てがよく美しい彼女を、嫁に欲しいという貴族の子息は多いだろうから。
彼女の隣に立つ未来の婚約者の姿を想像したら胸がムカムカとしてきた。
この気持ちには蓋をしよう。
絶対開かない重い蓋を……。
彼女がこの領地にいる間、兄の代わりとして振る舞おう。
彼女に気持ちを気取られないように。
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