第26話 ラブコメには先輩も付き物やろ!

 進藤さんのお父さんである孝蔵さんともコンタクトが取れて、良い話も出来た。


 俺はその結果に満足し、クラスのテントに戻るか……と思ったが、にも一応挨拶しておくか。色々とサポートしてもらったしな。

 体育祭の運営本部は、今いる退場門からめちゃくちゃ近いし。


 体育祭の運営は、放送部、体育委員、生徒会、新聞部、その他運動部数名で行われている。

 放送部はアナウンス、体育委員や運動部の生徒は競技の審判や誘導係、新聞部は学校新聞の作成の為の撮影や取材、生徒会は競技の結果をまとめる事や全体の運営といった形だ。


 俺は進藤さんの本当の事を知ってから、どう解決するかについてずっと考えていた。


 そこでまず考えたのが、シンプルで単純な作戦……進藤さんの親と接触する事だった。

 まずは相手を知るべし、と誰かが言っていたような気もするな。


 進藤さんが嫌っている親はどういう人なのか。

 

 それを知る事ができたら、こちらとしても作戦を立てやすいと俺は思っていた。


 幸いにも、進藤さんのお父さんである孝蔵さんは良い人だったと思う。


 実際に会って、全く俺の話を聞かない毒親だったら、本当にどうしようかと思っていたからな……。流石は成功者と言ったところだろうか。


 実際のところ、進藤さんがお父さんの孝蔵さんとしっかりと話せば、無事に決着がつきそうではあるが……せっかくなら、最高の状況を提供してあげたい。

 進藤さんにとっても親には急に話しにくいと思うし、倉島の奴もムカつくからな。協力関係のパートナーとして、役に立ちたいところだ。


——じゃあ、俺にいったい何ができるのか。


 俺は運動ができるわけでもないし、一人で倉島に立ち向かう勇気もない。


 でも……なら……そしてなら立ち向かえる。



 運動ができなくてもある程度何とかなり、進藤さんが勇気を持って言いやすい状況を作れる競技が、一つだけあった。



 そう。生徒会種目で人気種目でもある、借り人競争だ。


 実際にくじで俺に決まっていなければ、この作戦は思いつかなっただろう。全く、くじ運がいいのか悪いのか分からない。


 借り人競争で一位になれば、放送部と生徒会のインタビューがある。俺はそこを利用することに決めた。


 ただいくつか問題点もあった。


 そもそもの話、進藤さんに合うお題を俺が引くことができるのか。そして一位を取る事ができるのか。

 この二点が難関なポイントであり、この作戦の問題点でもあった。


 しかし、この借り人競争というのは体育祭の趣旨から少し外れている。生徒会が運営する唯一の競技で、運動能力があまり求められない競技だからだ。まぁ告白イベントがあるぐらいだからな。


 それに運営側からしても、この競技で更に体育祭が盛り上がる事を期待しているはず。


 なら……それを活かせばいい。



 そう考えた俺は、と接触する事に決めたのであった。


 もう、うすうすと分かっている人もいますよね? ええそうです。生徒会長です。



玉島たましま先輩、今日はよろしくお願いします」

「あっ、たっくん! 任せて任せて」


 俺は体育祭の運営本部のテントに行き、生徒会長の玉島先輩に簡単に挨拶をする。


 俺を『たっくん』と呼び、穏やかで明るく、どこか優しい雰囲気がある一人の女子……その女子こそ、この学校の生徒会長であり、三年生の玉島たましま涼香すずか先輩だ。


 綺麗で似合っているショートカットに、ほのかに香るフルーティーな匂い、スラッとしていて魅力的なグラマーな体型……人気になる要素がてんこ盛りである。


 あっ、別に変な目で見てないからな! 先輩の距離感が近いだけだから、俺は悪くないぞ! 不可抗力だ! 信じてくれ!


「改めてありがとうございます。今日は予定通りの感じでいいですか?」

「いいよ! これで一位間違いなしだね!」

「ですね。借り人競争を盛り上げられるよう、頑張ります」


 なぜ俺は生徒会長である玉島先輩と関係を持ち、内密にしているのか。


 その事を話すためには、少しばかり時を戻さなければならない——



◇◇◇



 体育祭の準備や競技の練習が行われている期間中、俺は一人で生徒会室を訪れていた。


 そして俺が生徒会室のドアを丁寧にノックすると、中から「はーい」と可愛らしい声が聞こえてくる。


「失礼しまーす……」

「あっ、君が水城君だね。この前はダイレクトメッセージありがと」

「いえいえ、こちらこそ」


 学生生活においてもスマホが普通になった今の世の中では、簡単に色々な人とSNSで繋がる事ができるようになった。


 俺はSNSを活用し、玉島先輩の垢を検索してフォロー……その後に急にフォローをして申し訳ないという謝罪の気持ちと、借り人競争を盛り上げられます! という旨のメッセージを送り、会って話をするアポを取った。



「それにしても、私と水城君の二人になる必要あった? 別に水城君が悪い事をするようには見えないけど……少し緊張しちゃって。それに色々と用事を押し付けて、他のメンバーをこの生徒会室から追い出すの大変だったんだよ?」

「申し訳ないです。でもこれは、ある種反則行為の話なので」

「ふむ。じゃあまずは水城君の話を聞いてみようか」


 俺はその玉島先輩の言葉を受け、事情を話し始める。玉島先輩は少し笑いながら、優しい表情で俺を見つめていた。


「実はですね、僕と仲のいい? 女子がいまして。その子とペアになるようなお題を事前に仕組み、僕を一位にしてくれないかなぁと思いまして」

「それは本当の話?」

「もちろんです」

「いいね。私にふざけて言ってくる人は結構いたけど、こうして真剣に話に来たのは水城君が初めてだよ」


 何となくの噂話ではあるが、玉島先輩は明るくて活発的な人と聞いた。学校行事やお祭りなども大好きらしい。

 そんな玉島先輩なら……話に乗ってくるだろうと俺は確信していた。


「わかった。水城君、その女子に告白するんでしょ?」

「そうです……と言いたいところですが、今回は違います。でもここが最大のチャンスで、盛り上がるチャンスでもあると思うんです」

「えぇ告白じゃないの!? じゃあどういう事っ?」

「うーん説明が難しいんですよね。まぁ簡単に言うと、その女の子は親との関係が少しこじれているんですよ。その女の子の親も体育祭は来るみたいなので、何か糸口になればなと」

「ほぉ~う? それは良い案かもね」


 借り人競争で一位になった時、話すのは俺ではない。進藤さん自身だ。


 たぶん、進藤さんは俺の考えを聞いて『無理』と言うだろう。だから俺は一位になるその時まで、進藤さんには何も伝えないつもりだ。


 進藤さんには厳しいかもしれないが、俺は大丈夫だと信じている。


 進藤さんは俺よりも強い。だから……きっと大丈夫。


「それとですね。その女の子には一応パートナー的な男子がいるんですけど、女の子の方はできるなら早く別れたいと思っているんですよ。少しその男子が悪いやつでして。制裁を少し与えるタイミングとしてもいいかなって」

「なるほど! そこで水城君が奪うと」

「いやまぁ、僕が奪うわけじゃないんですけどね。その女の子には、幸せになって欲しいと思うので」


 そして一通り俺の話を聞いた玉島先輩は、少し考えた後に親指を立てて、俺にグットサインを向けた。


「水城君の気持ちは分かったし、私としても協力したいと思ったからいいよ。お題の操作とかは、上手く私の方でやっておくよ。水城君が一位になれるように、そしてその女の子が幸せになるように、ね」

「ありがとうございます! 本当に助かります」

「いいよいいよ。私も五月の終わりには生徒会を引退するわけだし、役には立ちたいしさ。それに……面白そうじゃん」

「えぇ。面白くなると思いますよ」


 俺と玉島先輩は体育祭の様子を想像し、無邪気に公園で遊ぶ子供のように二人で笑い合いあった。


 全く、玉島先輩も悪よのう。


 まぁでも一応は体育祭の一部を私物化しているわけだし、この事を公に言えるわけもないので、色々と内密にしているというわけだ。



「でもこういうのいいなぁ。水城君たち、まだ二年でしょ? 三年生になると本当に考える事が増えるからさ」

「確かにそうですよね。一生このままがいいです」

「だよねぇ。まぁこんな先輩だけど、水城君も私と仲良くしてくれると嬉しいな。メッセージアプリの方も交換しよ~!」

「あっ、是非。こちらこそです」

「それに私は気にしないから、別にタメ口とかでもいいし。水城君が好きなように話してくれれば」



 流石は生徒会長。支持を集める理由が分かる。茜たちにしてもそうだが、外向的な人は本当に凄いなぁ。


「それはまだ難易度がベリーハードなので、今のところは玉島先輩で」

「りょーかい。うーん確か水城君の下の名前は拓海だったから……じゃあ、たっくんで!」

「あっ、じ、じゃあそれで」



 こうして俺は生徒会長の玉島先輩と繋がりができ、進藤さんの問題についても解決策を見出す事ができた。

 『たっくん』って呼ばれるのは距離感が近すぎる気もするので、少し恥ずかしい気持ちもあるが……。



 何はともあれ、とりあえずはよしよしといった感じだ。




 計画は色々と順調に進んでいる——


 

 

 


 

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