第44話 レオンの様子がおかしいぞ?
あのディランの好感度を爆上げしたのだから……と期待してレオンにも渡したクッキー。
今のところ、レオンの反応は微妙である。
「なんだ、これ」
「……あの、今日持ってきた本に出てくるものです。ほら、これ、魔法のランプです」
「ランプ……?」
「これが、魔人です」
「魔人……?」
「これが妖精のティンカーベルです」
「妖精……?」
私の説明を聞きながら、レオンがボソボソと繰り返す。
最後が疑問系になっている気がするけど、レオンはどれも初めて見るのだから仕方ないだろう。
うーーん……微妙な反応……。
レオンも3兄弟の顔の絵にしたほうがよかったかな?
ディランの好感度が上がったのは、きっとクッキーの味ではなく絵が理由だと思う。
食べる前に見せたあの爆笑が、好感度を一気にあげてくれたのだろう。
だから笑われるの覚悟で難しい絵に挑戦したんだけど……笑われるっていうか、呆れられてるような。
「あんた、本当に絵が下手だよね」
「……すみません」
そんな真顔でハッキリ言わなくても……。
「これ、毒入ってない?」
「は、入ってないですよ! ディラン様にも渡していますし!」
「ディラン兄さんに? あんたが作ったもの、あの人が食べるわけないじゃん」
「ですが、これはディラン様に頼まれて作ったものでして……」
「……ディラン兄さんが?」
ずっと細められていたレオンの目が、パチッと大きく開いた。
長い銀色のまつ毛が、光に当たってキラキラと輝いている。
「なんで? あんた、ディラン兄さんに嫌われてるじゃん」
「…………」
ほんとハッキリキッパリ言うなぁ……。この毒舌三男坊め!
本人に向かってそれ言っちゃう?
もし私がメンタル激弱だったらこの場で泣いてるよ?
もっとオブラートに包んでくれません? と言いたくなるのをグッとこらえて、私は軽く経緯を話した。
「少し前に、作ってお渡ししたのです。気に入ってくださったのか、また作るように言われました」
「へえ……」
あのディランがもう1度食べたいと言ったことに興味を持ったのか、レオンがさっきよりもマジマジとクッキーを見つめる。
どうやら警戒心はなくなったらしい。
食べてくれるかな?
あんまり見つめすぎないようにレオンの様子を窺っていると、1番小さいランプのクッキーを手に取ってくれた。
それを毒味するかのように、サクッと少しだけ口に入れている。
「……うん。まあ、悪くないんじゃない?」
「!」
よかった! レオンも気に入ってくれた?
「もう1度食べたいっていうほどじゃないけど」
「…………」
止まることのない毒舌に、なんだか耳が慣れてきてしまった気がする。
ゲームプレイ中はほぼほぼレオンと会話なんてしたことがなかったので、こんなにも毒舌なキャラだったとは知らなかった。
そういえば、キャラ紹介のところに『毒舌』って書いてあった気がする……。
話しかけたら好感度が下がっちゃうから、毒舌な場面なんて見たことなかったけどね!
よくよく考えたら、ディランも口が悪いし、エリオットも興味がなくなった瞬間容赦なくなる。
ビトだって結構失礼なことをズバズバ言ってくるし、レオンだけでなく攻略対象者全員の口が悪いとも言える。
ほんっとにこのクソゲーは……。
そんな男たちに囲まれているのだから、私がルーカスを推してしまうのも無理はない。
本当になぜ彼を攻略対象者に入れてくれなかったのかと、ゲーム会社の前に立って抗議したいくらいだ。
そんなことを考えていると、レオンが食べかけのクッキーをジッと見たあとに私に顔を向けた。
「ところで、なんで僕の分まで作ったの?」
「え?」
「ディラン兄さんに頼まれたのはわかったけど、だからって僕の分まで作ることなかったのに」
迷惑だったのかな? と思ってしまいそうな質問だけど、レオンの表情を見る限り違う気がする。
本当に不思議に思っているような純粋な瞳だ。
「あ、すみません。ディラン様に気に入ってもらえたので、レオン様にも気に入ってもらえるかもって思ってしまって……」
「…………ふーーん」
「?」
私の答えを聞いたレオンは、またクッキーに視線を戻し、それをパクッと口に入れた。
今度は少しだけでなく、全部食べてくれるようだ。
モグモグと口を動かしながら、レオンは残りのクッキーを包みごと受け取ってくれた。
「……これはあとで食べるよ」
「! ありがとうございます」
「なんでそっちがお礼言うの」
「……たしかに。そうですね」
「……変なヤツ」
なぜか、レオンが先ほどよりも元気がなくなっているような気がする。
何かを考え込んでいるような、少し暗い表情になっている。
どうしたんだろう?
さっきまでの毒舌の勢いはどこに?
「……名前」
「え?」
「名前、なんだっけ?」
名前? なんの?
……まさか、私の名前を聞かれてる?
「あの、私の名前ですか?」
「他に何があるの?」
「あっ……えっと、フェリシーです」
「……フェリシーね」
「???」
ど、どういうこと???
あの本にしか興味のないレオンが、私の名前を聞いた??
これは好感度が上がったのでは?
そんな考えから、そっと空中にずっと浮いたままのマイページのマークに触れてみる。
パッ
『好感度
エリオット……17%
ディラン……30%
レオン……30%
ビト……45%』
「えええええ!?」
「な、何?」
「あっ! すみません。なんでもないです!」
「?」
突然叫んだ私を怪しむ目で見ながら、レオンは私の書いた本をもう1度読み始めた。
私から視線が外れたことを確認してから、宙に浮いたマイページを凝視する。
レオンの好感度が13%も増えてる!! なんで!?
このクッキー、本当に好感度を爆上げさせる魔法のクッキーなの!?
態度には出さないように心の中で小躍りしていると、レオンの好感度もディランと同じように薄いピンク色になっていることに気づいた。
レオンもピンク色になってる?
30%を超えるとピンク色になるの?
そう思ってしまうけど、やはり45%のビトが白色なことでこの仮説が成り立たないことが証明されている。
隠しキャラのビトにだけ当てはまらないという可能性もあるが、もう1つこの仮説が成り立っていないと思える理由があった。
なんか……ディランのピンク色、前より少しだけ濃くなってる?
まだまだ薄いピンク色だけど、レオンの文字よりもディランの文字のほうが少しだけ濃い。
しかも、最初からその色だったわけではなく、あきらかにディランの文字が前よりも濃くなっているのだ。
好感度が変わってないのに、色だけが濃くなった……?
これ、なんなんだろう?
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