第33話 感激完走
中間地点の公園を出てしばらく行くと眼前に海が見えた。下り坂を気分よく駆け降りると、やがてコースは徐々に市街地に入っていく。
30キロ地点を過ぎると、さすがにかなり疲れて来た。足が重い、ふくらはぎが痛い。
制限時間に間に合うようにペースを計算する冴島のアドバイスを聞きながら、そして翔太くんに励まされながら、時々歩きを入れつつ、私はなんとか走り続けた。
ありがたいことに沿道の応援とエイドの飲み物、食べ物は、どこまで行っても途切れることはない。
熱烈な応援に勇気と元気をもらいながら、私はただただゴールを目指し、気力を振り絞って、よたよたと足を動かし続けた。
「姫様、もう少し」「ラストだよ」、いつの間にか、私の周りには、私を囲んで大集団ができていた。
いよいよゴールの陸上競技場がある公園に戻って来た。競技場に続くラスト1キロは、元気いっぱいに出迎えてくれる高校生ボランティアとハイタッチしながら必死に駆け抜けた。
競技場の400米トラックを四分の三周し、いよいよゴールだ。
「やったー!」
大人になってから、これだけ素直に、理屈抜きに、やったと思えることは初めてで、思わず大きな声が出た。両手を突き上げてのゴール、倒れそうになるところを冴島と翔太くんに支えられた。
「やりましたね!」
「姫様、完走おめでとうございます!」
「姫様とゴールなんて、一生の思い出になります」
一緒にゴールしたランナーさんたちに暖かい言葉をいただき、熱いものがこみ上げてきた。
完走証をいただき、大きな琉球ガラスの完走メダルを首にかけてもらった時、「雅姫様、今、完走しました」のアナウンスが流れた。
ランナーさんたちで賑わう公園の広場に行くと、大きな拍手と歓声で迎えられた。
もう、涙が止まらない。
私は手を振り、泣きながら、大きな声で叫んだ
「ありがとう。みんな、大好き!」
ホテルに戻ってシャワーを浴び、一休みした後、街に出かけることにした。
冴島には「姫様、自重なさいませ」とたしなめられたが、こんな楽しい夜にホテルに引きこもっているなんて考えられない。
完走メダルをかけて、三人で飲みに出ると、国際通りは大盛り上がりだった。
「あっ、姫様だ!」
完走メダルを下げた私は、どこへ行っても声をかけられる。
「沖縄へようこそ、これ、店の奢りだから飲んでって」
何軒かはしごをして、行く先々で、お店の人や完走ランナー同士で乾杯した。
「足、痛い、翔太くん、マッサージして」
ホテルの部屋に戻ると、私は全裸になって、翔太くんのマッサージを受けた。
「ねえ、翔太くん、私、マラソンに挑戦して、本当に良かった! ありがとうね」
「はいはい」
「私、こんなに応援してもらえるなんて思っていなかった。私って、王室って、すごく愛されてるんだって思えた。だから、私も、もっともっと、愛さなきゃ。この国の元気のために、もっともっと何かをしなきゃ。だって私はこの国の王族なんだもの」
「大変な一日でしたね、お疲れでしょう、今日はゆっくり休んでくださいね」
「何言ってんのよ、これはお忍びデート、たっぷりかわいがってよね」
私はすっぽんぽんのまま仰向けになって、翔太くんも裸になって、抱き合って…そこで私の記憶が途切れた。
気が付いたら朝だった。どうやら昨夜はあの最中に寝落ちしてしまったようだ。
起きようとしたらひどい筋肉痛で、朝エッチどころか歩くこともままならず、私は車いすに乗せられてで空港へ向かった。
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