第31話 果敢挑戦
「前から一度挑戦してみたいと思ってたんだよね。翔太くん、付き合ってよ」
雅姫のお泊りデートは、なんとフルマラソンを一緒に走ってほしいというものだった。
初心者でも参加できる有名なマラソンと言えばやはりホノルルマラソンだが、ハワイまで行くとなると一週間近く日本を留守にしなければならない。
さすがにそれはやり過ぎということで、沖縄のNAHAマラソンに出走することになった。ここなら二泊三日で参加可能で、リゾート気分も味わえる。
開催は12月の初旬、今から三か月後だ。
何かあるといけないので主催者側に連絡、姫様の参加可否の確認を取った。
主催者側は「是非ゲストランナーとして出走してほしい」とのことだったが、丁重にお断りし、あくまでもお忍びで参加させていただくことになった。
それでも、姫様が走っていることに気が付く人もいるだろう。二人っきりではなく冴島さんにも同行してもらうことになった。王室庁職員の男女二名がボディガードを兼ねて雅姫の伴走するという図式だ。
制限時間のないホノルルと違って、NAHAマラソンは6時間20分という制限時間がある。完走できないまでも中間地点の平和祈念公園まではたどり着きたい。
俺はフルマラソンは未経験だが、ハーフマラソンを1時間40分で走ったことがある。6時間でフルを走るのはおそらく楽勝だろう。
冴島さんはフルマラソンの経験があって、3時間半ペースなら余裕で大丈夫とのこと、今更だけど、すごい人だな。
姫様はジョギングなどほとんどしたことがないという。出走するからには練習をしていただけねばならない。
俺が彼女の部屋にお泊りをする週二回は、早起きして、1周約5キロの王宮の周りをジョギングすることにした。
最初は1周するのに40分くらいかかってたが、練習の甲斐あって、姫様は2周10キロを1時間程度で走れるようになった。
これなら少なくとも中間地点までは問題ないだろう。
大会本番の前日、俺たち三人は沖縄に移動し、スタート会場近くのホテルにチェックイン、会場の広い公園内の武道館 アリーナ棟で選手受付とナンバーカード引き換えを済ませた。
夕食はスタミナのつくものをということで、がっつりステーキを食べた。それにしてもよく食べるな、この二人。
ホテルに戻り、冴島さんと別れ、部屋でウェアにゼッケンを取り付けていると、雅姫がすり寄ってきた。
「ねえ、するでしょ」
「明日に触りますよ」と一応言ってみたが、
「何言ってんのよ。今回はお泊りデートなんだよ。それを忘れてもらっちゃ困るな」と俺を押し倒した。
1ポンドのステーキをぺろりと平らげた姫様は、夜の方も肉食獣さながらだった。
本番当日はホテルでランニングウェアに着替え、徒歩でスタート会場の公園に向かった。
12月とはいえ、既に気温はが20度を超えている。姫様と冴島さんは蛍光ピンクの半袖のランシャツに下は黒のロングスパッツ、変装もかねた日焼け対策として、ランニングキャップとサングラスも着用している。
俺もノースリーブのランシャツにサングラスを着用、幸い、誰も我々に気づいた様子はない。
出走者は約三万人、スタート位置はゼッケン番号によって区画されており、目標タイムを申告して、速い人から前方のスタートになる。
我々は6時間と申告したので、当然スタートはかなり後方からということになる。最後尾からのスタートだとスタート地点までに20分かかるはずだ。
ところが、番号を確認してスタートのブロックに着くと、そこは最前列だった。周囲を見渡すと、当然速そうな人ばかり。我々三人は明らかに場違いだ。
いよいよスタートを待つばかり。すると突然スターターが、「ここで出走するジョガーの、皆さんにサプライズがあります」と話し出した。
「なんと弟宮陛下のご長女、雅姫様が出走されます」
あちゃー、お忍びだって言ったのに、しゃべっちゃったよ。
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