№Ⅴ 私を犯した罪は大きい



『その声、元気そうだな。安心したよ、ただただ君の身が心配だった……』



 間違いなく、フェルディア=ユーリシカの声。

 この通信機とやらは本当に遠くに居る人間と繋がっているのか……でもごめんなさい、ケープ。今はこの道具に驚けるほど余裕はないの……。


「――貴方あなたが心配すべきは自分の身ではなくって? 私は死神と契約した。貴方と同じ契約者に私も成ったのよ」


『死神の系譜、馬鹿にできたものではなかったようだな。――しかし、君は私に勝てないよシャーリー……もし次に私に挑めば、今度は処女ではなく命を貰うぞ』


 ユーリシカは一呼吸置き、噛み殺した笑い声を響かせる。


『それにしても懐かしいなぁ……傑作だったよ、あの時の君は! ヨガリながら「ひぃひぃ」と、ブタのように鳴いて……上下の口から涎が垂れていたぞ』


 ふふっ、まったくわかりやすい挑発ね。


(ぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺す)


 キレるな。キレたら奴の思う壺だ。

 キレるな……キレるな……!



「通信機、壊すなよ? 結構魔力コストかかるんだから……」



 ピシ、ピシ、と自分でも気づかない内に通信機にヒビが入っていた。


【はははっ! 無理無理、壊す方に金貨十枚だ!】


【……楽しそうだな、リーパー】


 私は通信機を持っていない方の手、自分の左手を握りしめる。血が滲むほど力を入れて。

 それでも尚、怒りが収まらなかった。仕方なく、左手の全ての骨をみずから折って冷静さを取り戻す。


「……それで? 用件はそれだけ? わざわざ私を挑発して、寿命を短くしたいの?」


『そう逸るな。私も君とは早めに決着を付けたくてね。どうだい、私の居場所を教えてやろう』


「なんですって?」


『〈アイオーン時厳城じげんじょう〉、あの城の最上階にある謁見の間に私は居る』


 自分の居場所を。

 コイツ、舐めているのか?


「信じるとでも?」


『信じずとも来るだろう? どっちみち帝都へ行くためには通らなければならない場所だ。かかってこいシャーリー、一騎打ちで君を叩き潰そう』


 なんだ? この自信は……十中八九罠でしょうけど。

 だがそれだけじゃない。この空ぶっている感じ……コイツは自信があるんじゃない。強がっているんだ。


(そうか……)


 私は口元を緩ませる。

 そう深く考えることじゃない。この男の本質は契約者になっても変わっていないということだ。





「――そんなに私が憎い?」





 私は抉るような口調で、侮蔑を含んだ言い方で聞いた。


『……なんだと?』


 通信機越しにもわかる。いま、ユーリシカの眉はピクリと動いた。


「〈審判〉と〈吊るされた男〉、貴重な戦力を二つとも奪われたものねぇ。その内一人には裏切られた。さすがの人望ね、昔から貴方は金や権力でしか人を集められなかった。誰にも信頼されない、信用されない、可哀そうな人。貴方につく利益が無ければ誰も従えさせることはできない」


『……。』


「まさか奴隷に貴重な駒を奪われるなんて夢にも思わなかったんでしょう? あー、愚か愚か。こうしてわざわざ私を挑発して、自分の立場を。貴方のプライドが私を許せなかった。違う?」


『よく舌が回るようになったなぁ、シャーリー……』


 私は奴に聞こえるように嘲笑する。


「声、震えてるわよ?」


『……キサマ』


「――小物が。ビビったところでもう遅い」


 私は怒りを解放する。

 最大限の憤怒を、小さな声に込めて吐き出す。




「――私を犯した罪は大きいわよ。その股間にぶら下がった物……刻んでブタの餌にしてやる。もっとも、量が少なすぎて豚さんのお腹は満たせないでしょうけど」




 そう言い残して私は手に持った通信機を握りつぶした。


「あーあー……」


【リーパー。お前、やばい奴を選んだね……】


【おんもしれーだろ、俺の契約者】


 私は通信機の欠片を踏み砕き、二匹の亡霊と一人の契約者の方を向く。


「話は聞いてた?」


「〈アイオーン時厳城じげんじょう〉か……」


【行くだろ。面白そうだ】


 ケープは右の手のひらを上に向け「〈英知の書ミシェル〉」と唱え、再び未来の道具が記された本を取り出し、一番背面のページを開いた。


「どうやら嘘ではないっぽい。あいつに渡した通信機の反応はアイオーンにある」


「わかるの?」


「ああ。今オレが開いているページにはオレが作り出した未来の産物全ての位置が記されている」


【便利だな~、ここまで性能を引き出せるなんて珍しい。当たりを引いたな、ヒュルル】


【お前と一緒で性格に難があるのを除けば、ね】


「それにお前をアイオーンに引き込んで四人の契約者で叩く、っていうのが元々の作戦だ。オレが一番槍で兵力を削って、西側に回ってケツからそっちの軍を突く――」


「そしてアイオーンから出て来た残りの契約者で挟み撃ちってわけね」


「当初の予定は大幅に狂ってるがな。オレが背後に回ってないから逃げようと思えば逃げれる」


 アイオーンに奴は居る……。


「おっと、今通信機が壊されたな。オレが奴らに渡した道具、しらみつぶしに壊されていっている。勿体ない。位置を特定させないためか」


「ここからアイオーンまでは一日ぐらい……」


「もし、奴が待ち構えているとして、絶対に一騎打ちなんてしないぞ。オレと同じで臆病者だからな!」


【ほぼ間違いなく複数の契約者でガッチガチに固めている。それでも行くのか? 姫様】


 関係ない。


「そこにアイツが居るのなら行かない理由はないわ……目標は〈アイオーン時厳城じげんじょう〉。の要塞を更地に変えてやる……!」


 例えどれだけの契約者が邪魔しようが、まとめて蹴散らしてやる……!




 ――――――――――

【あとがき】

『面白い!』

『続きが気になる!』

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何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!

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