№Ⅲ ポテトチップス
パチ、パチ。
【ん?】
「拍手の音?」
拍手の音が遥か下の方から聞こえる。
私とリーパーは木を降りて行き、緑に隠れた先――太く長い枝の上に二つの人影を見る。
「合格だ。お前とならこの戦い、うまくやれそうだ」
声の
くせっけのある紫髪、後ろで髪を結んだその男は見たことの無い長袖長ズボンの衣服を着ている。
瞳は眠たげで、まったく覇気を感じないが、間違いなく契約者。すぐ
「随分と余裕ね。貴方、契約者でしょう?」
「そうだよ。吊るされた男〈ヒュルル〉と契約した〈ケープ〉だ。吊るされた男と言っても、コイツ女だけどな」
ペコリ、と少女亡霊が頭を下げる。いや、逆さまだから頭を上げる? と言った方が正しいのか。
「好きなのは可愛い女の子と歴史書、エロと本さえあれば飯はいらない。将来の夢はニート。あ、ニートって言うのは未来の働かない人間のことだ。知ってる?」
【ケープ、いきなり何を語っている?】
「まずオレのことを知ってもらおうと思って。自己紹介は大事だろ?」
「……。」
「とりあえずオレに戦う気はない。樹海を戻してくれ、花粉症なんだオレ。――は…は…ぶぇっくしょん!!!」
私は鼻水垂らした目の前の男の堕落した雰囲気に流され、契約術を解いた。
・
・
☆
ケープと名乗った男は依然として木の上でなにか……薄っぺらい丸い形をした食べ物を見知らぬ袋から取り出して口に運んでいた。パリ、パリという咀嚼音が響く。私は彼の居る木の下で、苛立ちから足を小刻みに動かしていた。
「これはポテトチップスって言ってな、未来の菓子なんだ。原材料はジャガイモ。そんで、オレが着ている服はジャージって言ってな――」
「そんなのどうでもいいわ。――ねぇ、貴方状況がわかってるの? いま、私と貴方は殺し合いをしているの」
「そうなのか? そっかぁ……オレはただのテストのつもりだったけど、そりゃそうだよな。そっちの目線で言ったら殺し合いか」
目の前の男のダラけきった態度に我慢できず、ぶち。と私の頭の血管がブチ切れた。
【オイオイそこの契約者! 姫様に冗談を返せるほどの器量があると思ったら大間違いだぞ!】
「黙りなさいリーパー」
リーパーが現れると相手の逆さ吊りの亡霊が嫌な顔をした。汚物を見る目だ。
【リーパー……】
【久しぶりだなぁ、ヒュルル。またお前の
【ぼくはお前が嫌いだ。話しかけるな】
【まーだ俺が死神の座についたこと、根に持ってるのか? 仕方ないだろ、俺の方がお前より適性があったんだから】
【ぐぬぬ……! やっぱり腹立つ、お前!】
まったく、話が進まない……。
「結局どうするの?
「やってもいいが、百パーセント――オレが負けるぞ」
【ケープ、やってみなくちゃわからない】
なんだコイツは。覇気がこれほどない人間は初めてだ……ましてや契約者の癖に。
「グリム王女!」
後ろから眷属たちが指示を求めてくる。
私は左手を上げ、待機の指令をだした。
「要件を簡潔にまとめなさい」
ケープという契約者は〈ポテトチップス〉なる食べ物を口に運び、もぐもぐとしながら言葉を発する。
「ん……あぁそうだ、まずそれを言わなきゃな。仲間になってくれ。同盟を組もう」
――――――――――
【あとがき】
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