episode3 未来の兵器と古代の産物

№Ⅰ 未来のカタログ

【これから本格的に契約者が襲ってくるだろう。多対一になることもある。こっちも契約者の仲間が一人ぐらい欲しい所だが――】


「いらないわよ。私には無限の兵力があるから」



――進軍は始まった。



 眷属で構成された新生ヘルベレム騎士団は足を止めることなく、あっという間に帝国領に突入する。


 馬はもちろん私の血を飲ませた眷属馬けんぞくば。普通の馬の三倍は速く、疲れもせず、眷属であるがゆえに従順。体感的には普通の馬の二十倍は進軍速度が速い。


 当然、敵襲は何度もあった。そのたびに数名の犠牲を産んだが被害はだった。


 とらえた敵兵は眷属に加え、死んだ味方はその骨を剣や槍、防具に加工する。眷属の骨で出来た武器は契約者の骨ほどではないが頑丈で、骨の剣は鋼鉄の盾を易々と切り裂き、骨の盾は万物ばんぶつはじいた。契約者の体も眷属の体も魔力を帯びているがゆえに鋼よりも堅く、柔軟みたいだ。


 私は自分の体を最大限に利用した。


 血は眷属製造酒に、骨は武具に、臓器は食料に。


 一度の再生に眷属一体。再生した私の体の血で十の眷属を作り、骨で六の武具を作り、肉で五人分の食料を作った。眷属たちが食事をして、個々で魔力を蓄えてくれれば私はいくらでも眷属を量産できる。



――まさに、無限の兵力。



 自分自身を切り売りするさまは敵兵からは恐れられ、味方からはうやまわれた。戦力の拡大速度は文字通り常軌じょうきいっしており、帝都ガルティアまであと三日で着くところまで来ていた。まさに暴風雨、轢いた跡には男も女も大人も子供も残らない。


 進軍が始まってから数日で眷属の数は3422体、その内魔力が満ちた眷属は1566体。

 この1566体がそのまま私の自己再生可能回数となる。



「おかしいわね」



 私は帝国要地の大橋を前にして疑問を口にした。


「……ここから先はクグル大橋。帝国の要塞〈アイオーン時厳城じげんじょう〉に繋がる要地、守りは今までの比じゃないはず」


 クグル大橋は百二十メートルほどの長さの橋で、横幅は馬が七匹並走できるほどの広さ。ここら一帯は昔は樹海で、その名残で橋の周辺にも森が乱立している。


【そうなのか? その割には鼠は数匹いるが、迎撃軍はいないようだな】


「バルフッド!!!」


 背後に控える元帝国兵士長、眷属第二号のバルフッドを呼ぶ。


 現在はこのバルフッドと王国騎士にして真っ先に眷属製造酒を飲んだテレスが両翼の指揮、二人は私にとって右腕左腕と呼べる人間だ。


「……陛下。どうなされました?」


「帝国には契約者が数人いるはず、それに兵の数も王国からの亡命組を合わせれば溢れるほどに居たはずよ。なのに、どうしてここまで守備が薄いの?」


「さて、私にもわかりません。ここは本来〈吊るされた男〉の契約者〈ケープ=シャルロック〉が守っていたはずです。しかし、眷属の姿すら……」


吊るされた男ヒュルルか! なるほどなるほど。道理で橋の上から魔力を感じるわけだ】


(どういうこと?)


【アイツは未来の物が書きしるされたを持っていて、魔力でカタログにある物を具現化できる。契約術〈英知の書ミシェル〉……それを使って未来の爆弾を橋に仕掛けてるのさ。百聞は一見に如かず、眷属を一体、橋の上を渡らせてみな】


「……。」


 よくわからないが、私はリーパーの言う通りに背後の眷属を一体先行させる。



『こ、この私が、隊の先頭を走って良いのですか!?』



 小太りした眷属が目を輝かせる。眷属にしたはずなのに、まるで覚えていない……。誰だコイツは?


「いいわよ。早く行って」


『あ、ありがたき幸せ!』


 眷属の馬が橋に足を踏み入れ、一歩、二歩、三歩。



――ドカン!!!



 なにもない橋の中心でいきなり眷属が爆散した。爆風が私の前髪を揺らぐ。



『グリム様ああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!』


 

 悲痛な断末魔と共に、名も知らぬ将兵は橋の下の川へ落ちた。


「――なによ、アレ」


地雷じらいつってな、未来の設置型兵器。爆発する落とし穴みたいなもんさ】


「未来の兵器……嘘じゃなさそうね」


 破壊されたクグル大橋は石造りだ。その橋の中心が今の爆発で消滅している。


【魔力で造ったモンだから本来の地雷よりさらに威力は高い】


 この橋を渡らなければ帝都にはいけない。

 橋が壊されたせいで向こうに行くには川を越える必要がある。眷属馬の馬力なら川を突っ切れるが……。



「ま、そう簡単に通らせてはくれないわよね……」



 向こう岸に、歪な模様が入った緑色の服を着た兵隊がやってくる。数は十、二十……森の中にもっと居るな。亡霊の姿は見えない、契約者は居ないか。近くに砦があるからそこに居るかもしれない。


【あれは迷彩服だな。そんで手に持ってるのは対戦車投擲発射器。ほほう、中々面白い物をお持ちで】


「一人で理解しないで私にも説明してくれる?」


『撃ち方よーい!』


 ガチャガチャ。と兵隊が見たことの無い筒を背負いだした。


――なにやらとてつもない魔力を感じる……! なにかヤバい!!?


「リーパー! アレはなに!?」


【いわゆるロケットランチャーさ。持ち運びできる大砲って言えばいいのか? とにかく逃げた方がいい――って、もう遅いか。健闘をいのーる】


(こ、の! アホ死神ッ!!!)


 筒の先より放たれた槍の矛先のような物が飛んでくる。


 私は馬を返そうとするが、間に合わなかった。飛んできた物体は地面に当たると同時に爆風を巻き起こし、先頭部隊を吹き飛ばした。



 ――――――――――

【あとがき】

『面白い!』

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