№Ⅶ 化け物には不要なモノ

 私は少年に向かって再生した肉・骨を元の破片に戻す。

 同時に綺麗な鮮血が噴きあがり、少年は己の血を全身に浴びた。少年の全身に巻き付いていた包帯が血で洗い流されていく。


 私は少年の生肌を見て、舌打ちする。


「まったく、どいつもこいつも……」


 包帯の下には多くの打撲傷、痣、火傷跡がある。

 右肩には十字架のマーク。染みた魔力から察するに、恐らく死神との契約時に私のへその部分に浮かび上がった髑髏のマークと同じ、契約者の証だろう。

 問題なのはそこじゃない。問題なのは反対側の肩、少年の左肩に巻き付くようにられたいばらのタトゥーだ。帝国で茨は不自由の証、奴隷の証拠。私も何度か帝国の男達に彫られそうになったが、そのたびにアルが止めていた。


 茨のタトゥー、そして彼の中性的な顔立ちと下半身の異様なけがかたから察するにきっと――



【同情心とはアルコールだよな。人を酔わせて判断をにぶらせる。――アンタもそう思うだろう? グリム】



 死神リーパーが釘を刺すように言う。


 先ほどの悲痛な叫びと傷跡から私は少年の事情を把握し、眉を細めかけたが、強引に同情心と言う名のアルコールを吐き捨てた。



「痛い……いたい。どこ、おばあちゃん……おばあちゃん……」



 腹は避け、膝より下はハチの巣状態。並みの人間ならとっくに死んでいる出血量。

 絶対に助からない傷だ。再生能力でも持っていない限りは――


【趣味が悪いな。婆さん……自分をそいつの実の祖母だとでも言ったのか?】


 リーパーは少し不機嫌な様子だ。

 審判……リーパーと同じ亡霊は、そっと地面にした少年の頭を撫でた。


【契約は、信頼関係が強固なほど大いなる力を発揮する。ただ、それだけの話よ……】


 そう言う老婆の目は言葉とは裏腹に慈愛に満ちたものだった。自分の孫に、お菓子でもあげているような、優しい優しいおばあちゃんの顔――。


「…………。」


「痛いよ。助けて……おばあちゃん、おばあちゃん……いたいの、いやだよ……」


 私は少年の壊れかけの声を聞き、我慢できず、前に出る。


「私の力で眷属にできれば助けられるかもしれない。もし、貴方ごと協力するなら――」


【ふふ。勘弁しておくれよお嬢さん。もう、この子をらくにしてあげておやり】


 つまらないことを言った。老婆の顔を見て、私は愚かな行為を反省する。


 私は「そう」と返事し、手に持った自分の骨でとどめをさした。

 少年ルークの骸はどこか嬉しそうに、主人の魂が天に昇っていく姿を見つめていた……。


【歳は取りたくないもんだねぇ。まさかこんな小童こわっぱ共に負けるとは……】


【てかよ婆さん、アンタら契約者同士で手を組んでるのか? 帝国に居るフェルディアって奴も契約者だろ、そんでここを守っていた婆さんたちも帝国軍だよな?】


鎮魂アルカナ同士で手を組むのは聖戦の流れとして当然のものよ。すでに大きく二つの契約者勢力ができておる】


【完全に出遅れってわけか】


【最後に契約をむすんだおぬしが悪い】


 老婆がここから消えるまで猶予は無いらしく、体は段々と透けていっている。


【リーパーよ。聖戦の優勝を狙う気になったか?】


【そいつは、俺のご主人様に聞いてくれ】


 老婆が私に目を合わせる。

 はっきりと私は首を横に振る。


「興味ないわ。私はある男を殺すために死神と契約した。それ以外のことはどうでもいい」


 ただ。と言葉を繋げる。


「もし、聖戦ってやつが、私の復讐の邪魔をするなら……ついでにき飛ばすまでよ」


【……ふぅむ。なかなかどうして、おぬしを見ていると興味が湧いてくる。聖戦そっちのけで復讐に生きる契約者と、道楽者の鎮魂アルカナ。おぬしらがどのような結末をげるか……上で見届けるとしよう――】


 そう言い残して、老婆は消え去った。








「これで、取り戻した」



 ようやく始まる。私の覇道……復讐が。

 私は父上が座っていた玉座に座り、ひざまずく王国兵たちに命令する。



「解放された王国兵たちを全てこの場に集めよ。――プレゼントしたいモノがあるから♪」




 ――――――――――

【あとがき】

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