№Ⅴ 死神と審判

「知っているの?」


 と聞くと、リーパーは少し残念そうに頷いた。


【二十番目の鎮魂アルカナ、“審判”の器に宿りし亡霊〈マザー〉。前回の聖戦の覇者だ。鎮魂アルカナは合計二十二体居るが、その中でも間違いなく最強候補だよ】


「前回の覇者。それってつまり、〈絶対神〉ってことでしょう?」


【そのとーり。でも聖戦が始まれば亡霊の役職はぜーんぶリセット! 神も奴隷も構わず平等さ。――絶対神になった実力は本物だ。気を付けろよ、姫様】


「……。」


 私が少し身構えるとリーパーは大きく笑った。


【はっはっは! ――心配するな。俺も最強候補さ。なにはともあれ、帝国が侵略した王国領地を守ってるってことは、アイツらは姫様の敵さ。存分に振るえよ、の怒りをな】


 リーパーを見て、審判マザーは【やれやれ】とため息をついた。


【契約してからまだ一日足らず……そんな状態で修行を終えたワシらに挑むとは愚かなり。リーパー! 加減はせんぞ!!!】


 今にも朽ち果てそうな老婆から禍々しいオーラが放たれる。契約者の少年は放たれたオーラを纏い、拳を作った。


 なんて気迫だ……リーパーの言うことに嘘は無いらしい。


【引退させてやるよ、婆さん】


 リーパーの言葉と共に私は鎌を構える。


「ねぇ、あなた」


「…………。」


「あなたよ、あなた。褐色の坊や。あなたはどこ出身?」


「……の、〈ルフテ――」


ね。じゃあ殺すわ」


 私と少年は同時に地面を蹴る。

 私は鎌による斬波攻撃を連発して牽制する。風の刃は不規則に曲がり、少年の頬を掠め、膝を傷つけ、一旦退かせることに成功した。


【いいか姫様。あの少年を近づけさせるなよ】


 風の刃のコントロールを見て、リーパーが少年を私から遠ざけようとしていることはわかっていた。リーパーの声色から察するに何らかの大きな理由があるようだけど……


【あの婆さんの契約術は前回の聖戦で見てる。だから対策は立てられる。まず牽制、死ぬ気で距離を取れ。万が一距離を詰められたらひたすら回避だ】


(――珍しく真面目ね。能力がわかってるなら教えなさい)


【へいへい。あの婆さんの契約術は“制――】


 じゅう。

 不意の一瞬、生肉を焼いた音が足元から聞こえた。


「炎!?」


 地面が赤く燃えている。規模は大きくないが、私の足は炎によって焦がされていた。


「――そういう能力か!」


 炎を操る力、よくおとぎ話で出てくる魔法。――炎はまずい。火力によっては再生する間もなく焼かれる!!!



【違うぞ姫様!】



 私が飛び跳ねると背後霊リーパーは声を荒げた。


【そいつは只の黒魔術、囮だ! 本命は――】


 宙に浮かぶ私に向け、少年はジャンプする。


(速すぎる!?)


 人間砲弾。高速で飛来する肉の塊……無理に回避することもできるが、それでは地上の炎に捕まるだろう。ならば――


(ここは防御……)


 少年の拳の着弾地点で両腕をクロスさせる。


【それじゃ駄目だ! 躱せ!!!】


「……大丈夫。例えはじききれなくても後で再生すれば――」


 私の両腕と少年の拳が衝突した瞬間、少年と審判マザーは声をかさねた。




「契約術――【絶対なるabsolute制約order】ッ!!!」




 左腕の骨が砕かれ、私は空中から壁に叩きつけられた。


 なにか呪文のようなことを言っていたけどダメージは大したことない。死神の再生の力で一秒とかからずに回復できた。問題は無い、はずなのに、死神リーパーは舌打ちしていた。舌打ちの理由を私は数秒後に知る。


。――“立つことを禁ずる”」


「制約?」


 ぐわん。

 体の中に何かが流れ込んだ。


「――――!!?」


 ガチン!! と胸の内で錠が掛けられた音がした。同時に、私の足が異常に重くなった。

 上からのしかかる重圧、足を曲げさせようと鎖が絡みついてくるような感覚……これは、まるで――


――“立つことを禁ずる”


 そう、まるで体が少年の言葉に従うように――



「体が……重い!?」



【あれが婆さんの契約術だ。【絶対なるabsolute制約order】……契約者が打撃を加えた相手に好きなルールを課すことができる。打撃の威力が高ければ高いほど強制力は強くなり、命令の程度が低いほどさらに強制力は強まる。……黒魔術で相手の態勢を崩し、契約術を打ち込む。契約者の常套手段だ】


 契約術。

 なるほど、これはまずい――

 


【来るぞ!】



 殴られるたび、打撃を貰う度、ルールで縛られ性能を制限されていく。

 一度嵌ると抜け出せなくなりそうだ。これ以上攻撃を貰うとまずいが、だけど躱すための足は死んでいる。先ほどの兵士長ぐらいには動けるが、契約者の機動にはついていけない!


――詰んでいる。


「並みならば、ね」


【む?】


 私は右手を前に突き出す。少年はなにかを感じ取ったのか急停止する。

 私は微笑みかけながら、


「なっ……!?」

【なにを!?】


 前に突き出した右手を己の左胸に突っ込んだ。

 血が勢いよく噴き出す、右手は真っ赤に染まった。私は己の体の内を探り、鼓動を捕まえる。


【オイオイ、痛覚は消えてないはずだぞ……】


【リーパーめ……とんだじゃじゃ馬を捕まえたようじゃな……!】


 私はドクン、ドクンと跳ねる心臓を抉り出し、全員に見えるように掲げる。




「あげるわ。心臓これ



 ――――――――――

【あとがき】

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