第6話 占い

 早くも正月を迎え、すでに三日が過ぎようとしていた。


 そしてタケルと俺が互いに好きだと知って1年が経った。一昨年のクリスマスの後に雪が降って、一緒にかまくらを作って、そしてファーストキス。


 でも俺たち、まだちゃんと付き合おうって言ってない。やっぱ、言ったほうが良いのだろうか。


 リビングの炬燵に入って、俺はみかんを食べながらテレビを観ていた。正月のテレビはどれも同じでつまらないが、暇つぶしにはなる。そして俺の隣では、母さんが新聞の占いコーナーを読んでいた。


「さて、今日のカオルの運勢は……なになに」

「自分の先に読めよ」


 いつも母さんは、俺の運勢を先に読んでは、俺をいじるのが好きだ。


「えーっと、『身近な人から、思わぬ告白があるでしょう』だってよ、カオル! いやーん、カオルにもいよいよ恋人が出来るのかしらね〜」

「え?」


『身近な人から、思わぬ告白ーー』それって、やっぱりタケルだろうか。


「なにもう顔赤くしてんのよ! 心当たりでもあるの?」

「べつに、そんなの無いって!」


 とっさに顔を触ったが、「冗談よ」とすぐに母さんが言った。一体なんなんだよ!


「あら、まだ続きがあるわ……えーっと『秘密がバレる予感?! 気をつけましょう』だって!」

「秘密?!」

「カオルにも秘密があるのね〜。なにかしら」

「ったく、そんなの無いって!」

「あら、今度は本当に顔が赤いわよ!」

「母さん!!」


 秘密ーー。


 それって、やっぱりタケルとのキスだろうか。それと、ときどきだけど二人で一緒に自慰行為はしている。兜合わせと言うらしいと知ったのは最近だ。でもセックスはしていない。やっぱりまだ抵抗があるから。それに俺の考えだけど、セックスはちゃんと付き合うってなってからだと思ってる。ちょっと古い考えかもしれないけど。でもヤルだけのセフレは俺の好みじゃない。


「カオル! タケルくんが来たわよ!」


 いつの間にやら、母さんが炬燵を抜け出していた。そして母さんの声が台所から聞こえた。


「あ、はーい。いま行く!」


 炬燵から出て、立ち上がった俺の足元に、猫のヤマトがすり寄ってきた。俺はヤマトを抱きかかえ、玄関へと向かった。廊下に出ると、タケルが靴を脱いでいるところだった。


「タケル!」

「おう。なんだヤマトも一緒か」

「一緒かって、飼ってるんだから当たり前だろ」

「わざとだって」


 そっと髪をタケルに撫でられ、頬にキスされた。タケルの、このさりげないキスはマジ心臓に悪い。ほら、体温が上昇してきてる。タケルを見るとクスッと笑っていた。


「なにがおかしいんだよ……」

「いや、わるい。おかしいんじゃなくて、カオルのその表情が可愛いと思ってな」

「可愛いって!」


 可愛い、は余計に恥ずいだろ。


 タケルが俺の顔を両手で包み込んできた。これはキスされると思い、急いで顔の前にヤマトを持ち上げた。


「にゃー」

「それより、早くゲームしようぜ」

「はいはい」


 タケルがヤマトを掴み、俺の頭にキスを落とした。だから恥ずいって……。


 ゲームをしに二階にある俺の部屋へと行った。ヤマトはタケルに抱っこされたままだ。部屋に入るとタケルが俺にヤマトを押し付けてきた。そして身動きの取れない俺を抱きしめ、そして唇を重ねた。


「カオル……」

「にゃあ〜!」

「いてっ」


 押し潰れたようになったヤマトが暴れ、タケルを引っ掻いた。そして俺の腕からヤマトが飛び降り、部屋のドアにガリガリと爪を立てた。ちょうど同時に、部屋のドアがノックされ、俺たちは急いで離れた。


 ドアがゆっくりと開くと、ヤマトが部屋から飛び出していった。そして入れ違いに母さんがドアから顔を覗かせ、お茶菓子やみかんが載ったお盆を俺に差し出した。


「あれ、ヤマトはご機嫌ななめね。あらタケルくん、手から血が出てるわよ。もしかしてヤマトに引っ掻かれた? 大変、すぐに救急箱持ってくるから!」

「あ、俺が取りに行くって!」


 急いで救急箱を持って部屋へと戻った。そして傷口を石鹸で丁寧に洗い、消毒した。


「ごめん、痛む?」

「これくらい大丈夫だって。それより……」


 タケルが俺の両頬を包み込んで、顔を近づけてきた。


「タケル、ちょっと待った…!」

「カオル?」


 首を傾げたタケルが俺をじっと見つめた。


「その、あの……」


 さっきの占いが頭から離れない。キスなら付き合ってなくても、好き同士なんだからして良いのかな?


「あのさ、タケル……俺たちってさ……」

「ん?」

「その、だから……」


 なんて聞けば良いんだ? 俺たちって付き合ってないよな? でもお互い好きだよな? なんか違う!


「カオル……」

「ん?」

「俺と付き合ってくれないか?」

「えっ……!」

「俺じゃ、ダメか?」

「ダメじゃない! 全然ダメじゃない……それより、俺のほうがタケルに釣り合わないっていうか、なんていうか……」

「なに馬鹿なこと言ってんだ。俺は、お前じゃなきゃダメなんだ」

「タケル……」


 俺はこんなに優柔不断なのに、俺じゃなきゃダメだと言ってくれるタケル。


「カオル……それで、返事は?」

「うん、俺もタケルと付き合いたい」


 タケルが勢いよく俺に抱きついてきた。その拍子に俺はカーペットへと押し倒され、唇を重ねた。深くて甘いキス。


「にゃー」


 ヤマトの鳴き声に俺たちは急いで起きあがった。部屋のドアを見ると半開きになっていた。俺の顔から血の気が引いた。そしてドアの背後から物音がし、俺はドアを全開にした。


「母さん……」

「ごめん! 盗み聞きするつもりじゃなかったのよ。本当よ! だって急にヤマトが……」


 ヤマトが俺の足元で顔をスリスリと擦っていた。


「ヤマト!!」


 タケルがヤマトを捕まえようとしたが、ヤマトはとっさに母さんのところへと走って逃げた。


 こうして、俺たちが恋人同士になったことや、キスしたことも、両方の親に知られることとなった。

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