30 背水の決戦場
「うぉおおおぉぉぉおおおっ!!?」
俺は今、真っ暗で細い穴の中をものすごい勢いで滑っている。
穴の表面には水分を含んだ苔がびっしりとついて、それが潤滑油となり高速で滑り落ちているのだ。
「おおおおおっ!!!」
俺が何故こんな事になっているかといえば、少し時を遡ることになる。
それは、ちょうどミルがイソの実を見つけたと言った直後だった。
木の上にある実を取るのが難しいと思った俺は、回収をミルに任せ付近を警戒していた。そんな時。
「ん......?」
近くで何か物音を感じ、俺は感覚を研ぎ澄ませた。すると、茂みの奥で項垂れている女性を見つけたのだ。
「大丈夫か...?!」
俺が駆け寄ると、その女性は顔面蒼白で俺にしがみついてきた。
「た、助けてください!中に...!」
「中.......?」
女性が指す方向には小さな暗い洞窟があった。
「付いてきてください!」
「ちょ、おい!」
一旦ミルに報告しようと思った矢先、俺が止めるより先に女が洞窟に入っていった。
「ちょっと待てよ!」
俺は一旦話を聞こうと、女の肩を掴もうとした。しかし────。
「......は?」
ふわりと、初めからそこにいなかったかのように。信じられないことだが、俺が掴もうとした女は影も形もなく消え去ったのだ。俺は驚き、腕を伸ばしたまま硬直した。
「ケケケ....じゃ、楽しんでこいよぉ」
そして、背後から聞こえたのはそんな男の声。
次の瞬間。背中に伝わる衝撃とともに、俺の眼の前の地面が消滅した。
「なっ────?!」
俺は何が何やらわからないまま、そのまま暗い洞窟の穴を滑り落ちたのだった。
俺は洞窟の穴の中を、止まることなくどんどんと奥へと進んでいった。そして、遂に穴の奥から光がさした。出口だ。勢いそのままに、俺は出口へと突っ込んでいった。眩しい光に目を細めていると、体が地面に打ち付けられる感覚があった。
「.....ってて、なんだここは....!」
すごい速度で硬い地面に打ち付けられたが、防御力のおかげか大したことはない。
そして周りを確認しようと重い動きで体を起こした俺は、目に入った光景に唖然とする。
先ず、太陽光が指していることに気づいた。数十メートル上の地上まで空洞がつながっていて、そこから光が指している。そして平べったく、ビンの底のように丸い形のフィールド。その周囲には底の見えない深い溝がある。まさに、背水の決戦場だ。
「あれは.....?」
光に気を取られ気づかなかったが、俺のちょうど反対側に、何かがいることに気づいた。
巨大な岩のようだが、よくよく観察するとそれは生命体のように思えた────。
「うそだろ.....」
ぱらぱらと体から土砂を落としながらそいつは起き上がった。全身が苔むした岩石で覆われた巨体。前に戦ったサイクロプスも十分巨大だったが、それよりもさらに大きい。そして発せられる雰囲気が、サイクロプスよりも更に上位の存在だという威厳を醸し出していた。
(......逃げる...いや、あの滑ってきた穴をこっちから登れるか....?)
瞬時に思考を巡らせる俺だが、「逃走」に関しては恐らく不可能だと判断する。ただでさえ角度のついた穴に、ヌルヌルと滑る苔が敷き詰められている。安全な状況ならまだしも、目の前の怪物を前にそれをするのは至難の業だ。
「....
すると、起き上がった岩の巨人、仮称
そんなことを考えていた次の瞬間。瞬くような速度でその
「はぁっ?!」
上空へ飛び上がった巨体は後方に拳を振り上げる仕草をしている。あの
「間....に合えっ!!」
即座に後方へ飛び込むように回避する。
「ぐおお.....!」
飛び込んだ直後、後方から衝撃波と轟音が押し寄せてくる。俺は土煙を立てながら地面を滑った。
「ごほっ.......って、あっぶねえ!!」
煙を払い、立ち上がろうとした俺は冷や汗をかく。背後を振り向くと、そこにはもう地面がなかった。
「落ちたら....流石に終わりか」
目の前は断崖絶壁で底も見えない高さ。落ちたら俺でもどうにもならない。落ちた衝撃には耐えられるかも知れないが、登る手段がないからだ。
「落ちないように、コイツと戦えってか.....」
さっきまで俺が立っていた地面は少し凹み、亀裂が走っている。見た目から俺と同じ防御特化なタイプかと思っていたが、攻撃力も桁違いのようだ。崖を登るよりもコイツを倒すことのほうが難しいとすら感じさせてくる。
(────いや、でも待てよ?....この怪物でも、断崖絶壁から落ちれば一溜りもないんじゃないか?)
突然、そんな妙案が閃いた。
円形の地面を囲む溝は底が見えないほど深い。あの
この高さからうまく落とせば倒す、もしくは無力化出来るかもしれない。それに「落とす」という一点に絞れば俺の能力は悪くない。ちょうど、最近は相手を吹き飛ばす技を練習しているところなのだ。
「最悪の展開だが、状況は悪くないな」
落ちたら終わりの崖に囲まれた決戦場に、巨大な怪物と二人きり。しかし不幸中の幸いというべきか、相性と環境は存外都合がいい。つまり、あとは俺の腕前次第ということだ。
「やってやる、
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