✦07✧︎ 獏
鼻は象、目は犀。脚は虎、尾は牛。雲を思わす獅子の
「
己の牙を嘲笑い、『獏』の銅像に掌の血を擦り付けた! 新たな異能 、【
水中で目覚めれば、薄明光線が降り注ぐ。妖の視界で捉えたのは、自然光だけじゃない。水上から降りる樹枝は、
【桐乃を殺す】
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【河に墜ちた男の
優柔不断な奴め、選択肢が揺れている。ならお前の代わりに、自分が選択してやろう。お前に自由意思があると思わせたままでな! 【桐乃を殺す】選択肢ごと樹枝を砕けば、早速出迎えだ。水流を裂く朱龍の口内に、妖力を喰らわしてやる! 炸裂した
「善悪斑の権化に、狂喜しろ! 眼前の男こそ、お前らの神だ! 」
浬は唖然と振り返り、揚子江の雨は降る! 夢遊の記憶は無自覚でも、期待の星雨に瞳は輝いた。首を締められていた桐乃は離され、戦火で燃える岸の消火完了だ! 呼吸を取り戻し、桐乃は茫洋としゃがみ込んだ。奇跡を見上げるように、安堵の涙を流す。中々悦い、崇拝者じゃないか。
「しょうちゃんが……私の『
「ロリコン厨二病のな! 【
我に返った浬が一手を打つ前に、素直な桐乃は鉄槌を振るう! 捨てられた武器が熱鉄に変わった瞬間に、自分は悪人面で鱗を蹴り、後宙の最中に指を鳴らす。相乗した妖力が炸裂し、岸辺は爆発した!
「『人魚』の丸焼きの完成だ! 物理攻撃が無効でも、妖力を絡めれば有効らしいな! 」
悔しくもヒントを授けてくれたのは、ガソリンで焼かれて犠牲になった人々だ。 軍属の有無も人種も超えて静止した群衆は、異質な花火を鑑賞した。妖力を浴びせなかった彼らにとって、
「やめろ……っ……僕らの血を焼き尽くすな! 桐乃を殺されたくなければ、『
人魚と共に苦痛を喘ぐ浬に、双刀を構える隙などやるものか! 両手を祈りに組んだ桐乃が、凛と見つめるのだから。その唇は声無く、『贖罪と救いを』と告げている。
「残念だが、お前は桐乃を殺せない! 自分と同じく『幸せになる見本』を知らず、陽を畏れる餓鬼なんだからな! 血の縛りを捨てて、軟弱な精神に自問自答してみろよ! 」
男女惑わす魔性の美貌を、
「自信過剰な君なら、本当の神に成れるかもしれないな。君達を加害した僕と世界に、救う価値などあるのか? 」
癒える口角の血を拭い、自分は立ち上がった。手の甲を返し、夜空に掌を向ける。凍えた悪夢に愛しき日差しを齎し、黎明を手に入れる為に。
「価値が無いなら、創造すればいい。心に蟲が蔓延るこの地獄ごと、ひっくり返してやる。斑の自分が吉兆を齎すのは、選んだ奴らだけだ。同族だった『人』へ、最初で最後の救いをくれてやる」
群衆の脳裏に干渉すれば、共同幻想を誘発する。優しいネオンの虹色陽炎が郷愁の夢となり、人々と妖を揺蕩うのだ。
とある子供は、春節に紅豆餅の
価値ある日常には、言葉の境界線など無い。浬も人々からも悪夢を払って心を変えるには、他者に『大切なひと』を重ね、同じ命の価値を思い出せばいい。
「忘れるな、この夜を! 『大切なひと』が重んじる己の心を、他者に奪わせるな! 己の空白の代換えに、他者の価値を奪わない為に! 」
しかし、今の自分はまだ『人』を許す事が出来ない。愛しい両親を殺し、桐乃達『妖』を個体数で虐げ続けているのだから。血と遺伝子が近しい群れを重んじるあまり、一人一人の価値を軽んじる。戦略上の数字に変えてしまう。だが、今くらいは救われてもいいだろ。妖に化したばかりで、異能の酷使は堪えるな。くらくらと、虹色陽炎越しに夜空を見上げた。飛行場から飛び立った、愛しい
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