第25話 初めての旅行
ディオンルーク様の決定があったその日の内にマリエ嬢とモニカ嬢は家へと帰っていった。
かといって、正式に婚約が調った訳ではない。
まだまだ準備が必要なのだ。
新しく家庭教師も付けられることになり、ロンナ以外にも侍女が付けられることになった。
平民であるロンナは侯爵夫人となる予定の、私の侍女にはなれない身分なのだ。
本来なら、伯爵家へ戻さなくてはいけないのだが、既に私とは気安い仲になっているので、私としても側に居て欲しかった。
その点を加味して、例外として雇う事を認められたのだ。
けれど、侍女としての行儀作法をロンナも課されることになってしまった。
申し訳ない、とは思うのだけれど、案外ロンナも楽しんでいる様子で安心。
私は本格的に語学の勉強を始める事になった。
元々、商人として言語に精通していた方が良いのもあって習ってはいた。
母がサラセニア語を話せるので、姉妹共に教わっており、日常会話は問題なく話せる。
帝国も大きな国なので、そちらも教師を付けて貰っていたので、日常会話は話せた。
貴族の言葉遣いや読み書きなどを本格的に習うのだ。
午前中は侯爵夫人自ら指導頂き、午後は語学と歴史、文化と礼儀作法の勉強。
お茶の時間には侯爵夫人とお茶を飲み、偶にそこへディオンルーク様が参加する。
それから早朝からの調理場勤務は相変わらず続けていた。
偶に洗濯なども手伝ったりもする。
使用人達の語るアデリーナ様は、可愛らしく人懐こい方だという話で。
「シーツを干そうとしていると、引っ張ってくるまってしまわれて」
などと微笑ましい笑い話を聞けば、愛されていたのだなあ、とか可愛らしいなあ、などと私も和む。
侯爵家の思い出話以外にも、意外な事に他家の噂話を聞くことが出来るのも面白い。
使用人同士の噂話など、町へ行った時に情報交換するのだという。
とはいえ、侯爵家ではその情報すら、公開して良い物と悪い物は厳しく制限されている。
その辺りは家令や侍女長の裁量だ。
勿論その上には侯爵夫人が君臨している。
私は時々、レオナ様と手紙をやり取りしている。
実家は商売しているから、毎日が忙しいので、簡単な報告と元気だという事を伝えたのみ。
伯爵家では、別途侯爵家から正式に話が言っていると思うので、こちらも報告のみを簡潔に伝えた。
どうやら両家の間では、今後の正式な私の生活費などは侯爵家が一切支払うとの事で、ドレスや宝飾品も日々増えていっている。
日常着は自分で選んでいいとの事で、動き易さを重視したものを作って貰っていた。
夜会用のドレスはディオンルーク様から贈られ、お茶会や外出用は侯爵夫人が見立ててくれている。
日々努力も勉強もしているけれど、それでも大事にされ過ぎて夢の様にふわふわ。
私、こんなに幸せでいいのかな?
いやいや、幸せに浸る前にもっと勉強しないと!!
婚約者候補として侯爵邸に残されてから一月が過ぎた頃、何と旅行の話が持ち上がった。
ディーヴルという町へ行くらしい。
サラセニア王国との国境の町で、我がネペンテス王国との境目にある。
馬車で1週間の道程だ。
新婚旅行でもなく、婚前旅行にしては長距離だし、侯爵夫妻とディオンルーク様も一緒に、四人揃って行くのだという。
ただの観光よ、と仰っていたけれど、それはもう。
内緒よ、と同義である。
訊くなと言われればそれまでなので、私は全力で楽しむことにした。
だって!!
初めての旅行!!だもの!!
生まれてこの方、商売で近場の町村へ出向くことはあっても、国外に出たことも無ければ、国境付近に近づいた事すらないのだ。
しかも旅行!
裕福でも商家なので、休みなんて無いも同然。
あっても、身体を休めるので精いっぱいで、出かけるほどの体力は残されていない。
それに比べれば、侯爵邸での生活は、天国だ。
好きなだけ本を読めるし、美味しい食べ物を食べさせてもらえる。
何より侯爵夫妻とディオンルーク様を始め、使用人までもが優しくて親切で温かい。
よし!
旅程にある地域の、地理と歴史と特産品も学ぼう。
それからサラセニア王国やディーヴルの町についても。
私はやる気に満ちて、更に勉強量を増やすのだった。
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