6

ジー、ジーと虫の音が闇夜に響く。鈴虫の鳴く声であろうか、翅をこすり合わせて、その音量を大きくしては、雌への求愛行動を行う。


 鈴虫の鳴く音がすると夜を実感する。静寂の中で鈴虫の音だけが響き、その音に耳を傾けては、心が安らぐのを感じた。先ほどまですすり泣きしていた篠森もだいぶ落ち着いたのか、微かに聞こえる規則正しい呼吸の音が虫の音と混じりあう。だいぶ落ち着いたようではあるが、まだ寝付けぬのか、何度か寝返りを打つ。私も、篠森の言葉が反芻して眠れずにいると、和佐たちがいる隣の部屋の扉を開ける音がする。トイレであろうなと考えていると、ソロソロと布を擦るような足音が近づいてきて、私たちの部屋の前で止まる。


「夜分にごめんね。まだ起きてる?」


 和佐である。和佐は声量を落として、隣で眠る月出を起こさぬよう気を付けながら話しかける。


「どうかしたのですか?」


 私はゆっくりと体を起こし障子越しに和佐へと返事をする。障子にはぼんやりと和佐の姿が影となって映る。


「話したいことがあってきたんだ」

「話したいこと・・・ですか?」

「そう。君たちが今後どうするかについてだ」


 その言葉を聞いて、私と篠森は布団からでて障子を少し開ける。そこには和佐が膝たちで座っていた。


「先ほどは自分たちで真実に辿り着かなくてはならないなんて偉そうなことを言ってしまったけど、明日、日の出前に君たちが今日来たところへ行ってみるといい。君たちがもし、何らかの意味を持ってここへ来たのであれば天命が下るはずだ」

「天命?」

「そうだ、天命だ。以前、日の出と共に天命が下ったものがいたんだ。もし、君たちがここへ来たことになんらかの理由があるのであれば、もしかしたら、神のお告げを受けるかもしれない」


 これは何の根拠もならないが、と和佐は付け足し言う。


 天命が下ったのなら、私たちはそれに従って進めばいい。しかし、もし天命とやらが下らなければ私たちはどうなってしまうのだろうか。


 私は一抹の不安を覚える。不安を口にするかためらっていると篠森が和佐に尋ねる。


「なにもなければ、どうなるのです?」

「わからない。けれど、君たちがここへ来た理由を自分たちの力で知りうるのは困難を極める。最悪、君たちはここに未来永劫いなければならない」


未来永劫の数文字が頭の中で木霊する。


 明日の朝、私たちの運命が決まると言われたようなものである。実感は湧かぬが、もし天命がなければ・・・思考は悪いほうへと流れていく。


 私はなんと返事をすればわからず、呆然としていると、和佐は「それじゃあ、お休み」とだけ言い、静かに障子を閉めて部屋へと戻っていった。


 暫くその場から動けずにいると、篠森は、泣き疲れ落ち着いたのか、それとも躍起になったのか「天命がないときは、その時はその時だ」と言い、布団へともぐった。その後しばらくすると寝息が聞こえた。私も、その後を追うように、気づけば一瞬のうちに夢の世界へと旅立っていた。

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