ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が子離れしないので完全に詰んでる

街風

第1話ゲームの悪役に転生した

祝福の儀。

十八歳になると、貴賤を問わず誰もが聖教会が執り行う儀式にて魔法の属性を授かる。


属性は火、水、雷、光、闇など様々な種類があり、どんな人でも基本一つ、才能ある者ではニつ以上の属性を獲得する。


そんな中―――


「無属性だと!? ふざけるなっ、この恥さらしめっ!!!」


「申し訳ございませんっ!」


神聖な祝福の儀の間において、およそ似つかわしくない罵声が飛び交っていた。


「お前は五百年続くヴァリアンツ伯爵家に泥をぬったのだぞ!? その意味が分かっているのかッこの馬鹿息子め!」


「……」


教会には祝福を受けにきた大勢の人がいる。

人生でたった1度しか訪れないお祝いの舞台であり、大声で怒鳴っていい場所じゃない。非常識な行為に、大勢の者がヒソヒソと小声で話しながら、を凝視していた。


俺はそんな周囲の注目もはばからず、目の前で立ち尽くす鹿に怒りをぶつけていた。


「言い返すこともできないのか!? なんとか言ってみろ、ハイネ・ヴァリアンツ!」


「な、なにも言い返すことはございません!」


不肖の息子ハイネは、反論も出来ずにひたすら頭を下げてくるのみ。


その情けない姿は、貴族としてあまりにみっともなかった。


こんな奴が本当に俺の息子なのか? 

受け入れ難い結果に、我を忘れて喉がちぎれんばかりに叫んだ。


「恥を知れ、この期待外れが!」


怒りで頭にカッと血がのぼる。


眩暈がして、フラッと身体が揺れた。


倒れそうになるのをグッと堪えて……唐突に、俺は全ての記憶を取り戻した。


あ、あれ?

この光景、このセリフ、どこかで見たことがあるぞ。


そうだ。これは前世で俺がハマっていたゲーム「聖者の冒険譚ホーリー・クエスト」のオープニングじゃないか!


そして、俺ことルドルフ・ヴァリアンツは、息子である主人公ハイネを追放するゲームの悪役……あ、あえ?


「う、嘘だ嘘だ嘘だ! そんな馬鹿な!」


衝撃的すぎる事実に、腰が砕けて膝から崩れ落ちる。


なんの冗談だよ、もしかして夢?


試しにムギーっと頬を抓ってみたが、普通に痛かった。


「うそだろぉぉぉぉぉぉーー!」


「父上!?」


間違いない。これは現実だ。

その証拠に、俺には前世で日本人として生きた四十年の記憶と、この世界で悪役ルドルフとして生きた三十九年間の鮮明な記憶がある。



「父上、大丈夫ですか!?」


「あ、だだだ大丈夫だぁ」


息子のハイネが慌てて駆け寄ってくる。


ゲームの時と、何一つ変わらないハイネの美しい姿。

艶やかな黒髪に、宝石のよう煌めく純真無垢の黒い瞳。整った顔立はハリウッド俳優にも引けを取らない。超イケメンだ。


しかも、後に勇者として覚醒するんだろ? 完璧超人かよ、パーフェクトすぎる。


一方、俺はというと……最近著しく成長してきた自分のポッコリ腹を眺める。


膝を立てて座るだけで、腹の脂肪が脚につっかえる。加齢とともに成長したメタボリックな腹。自他ともに認めざるを得ないオッサン。ただの中年である。


聖者の冒険譚ホーリー・クエストにおいて、ルドルフ・ヴァリアンツは父でありながら勇者ハイネと敵対する悪役だ。ゲーム内でのスペックもそこそこ止まりで、パッとしないキャラクター。


聖者の冒険譚ホーリー・クエストの物語をざっくり説明すると、無属性の烙印を押されたハイネが実家から勘当されるシーンでゲームは幕を開ける。


親に見捨てられた悔しさを胸に、ハイネは反骨精神でその後入学する魔剣士学園でメキメキと実力を伸ばしていく。その過程で無属性だったハイネは、同級生のヒロインと一緒に聖属性を獲得する。ヒロインは聖女、ハイネは勇者となり、学園の同級生達とパーティーを組んで、ラスボスの魔人とそれに与する悪役貴族を討伐するというストーリーだ。


つまり、俺の存在意義はストーリー上に設置された舞台装置。勇者ハイネに旅立ちのきっかけを与える脇役。さらに言えば、いずれ息子に断罪されるというオマケつきだ。


どうやら運命は俺の味方をしなかったらしい。


俺だってッ、こんな中年でなくカッコいい主人公がよかったッ!

可愛い女に囲まれてッ、ハーレムでチヤホヤされてーよッ!


息子のハイネが羨ましくて仕方ない。


だが、今の俺には、三十九年間の年月で築いてきた愛する家族、友人、ヴァリアンツ領に住む守るべき領民が大勢暮らしている。ここで世界が破滅しては困る。


だから、責任はとる。


ハイネを冷酷に追放するのは俺に与えられた最初で最後の役目だ。



悪役だろうが、愛する息子のためなら、全力で道化を演じてみせよう。それが父として俺に出来る唯一の手向けだから。


(ふっ、まさか記憶を取り戻した途端にいきなりフィナーレとはな)


心配して手を差し伸べてきたハイネの手を邪険に払う。

立ち上がって、腹の底から声を出して宣言した。


「ハイネよ、無能なお前をもう息子だとは思わぬ。二度と我が家の敷地をまたぐな。今後ヴァリアンツ家の家名を名乗り、先祖の名を汚すことも許さん。たとえ貴様が野垂れ死のうが助けはしない。俺は、貴様を……追放する!」


ゲームで聞いた、うる覚えのセリフを宣言する。ショックを受けた表情で固まる息子。見ているだけでズキズキと良心が痛む。


でも、これでいいんだ。情にほだされ情けをかえれば、ハイネの原動力となる反骨精神が生まれない。そして、行きつく先はバッドエンドだ。


だから、俺が出来ることは息子がこの先の人生で成功することを願うだけ。


『さあ、息子よ。大志を抱いて大空へ旅立つのだっ!』


ふっ、形はどうあれ子供の成長というものは、どこか悲しく、どこか喜ばしいものだな。役目を終えた俺にもうやることはない。今後はゆっくりと余生を過ごさせて貰おうか。


飛ぶ鳥跡を濁さず。

そそくさと撤退すべく俺は颯爽と歩いてハイネの横を通り過ぎた。


すると、誰かが俺の腕を掴んだ。


「ん、なんだ?」


まったく、間の悪い奴め、一体誰だ? 

折角、俺が湖畔の白鳥のように、ビューティフルに水面から飛び出して、潔く退場しようとしてたのにさ。


その愚者の面を確認すると、真面目腐った表情でこちらをジッと見つめるハイネの姿があった。


「父上・・・・・・」


「な、なんだ」


あれ、こんな場面ゲームにあっただろうか?


「父上、私は・・・・・・」


「うん?」
















「私はどこへもいきませんっ! この命尽き果てるまでっ、父上のそばでお仕えしとうございます!」」


「・・・・・・え?」





なんて?





「す、すまん。よく聞き取れなかった。も、もう一度言ってくれ」


「はい、何度でも申します! 私は片時も父上から離れるつもりはございません!」




・・・・・・?



・・・・・・・・・・・・??




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!???





「はい!?」


何言ってんだコイツ。

おい、原作にこんなシーンなかったぞ。どうなってやがる!?


袖を掴んでくるハイネの手を強引に振り払う。


「ちょ、ちょっと待て! 離れないってお前、自分の立場分かってる? 俺はお前を追放したんだぞ!?」


「もちろん、分かっておりますとも!」


「ではなぜ、そんな馬鹿げたことが言える?」


すると、ハイネは花の咲くような笑顔で言った。


「未熟ゆえに私は追い出されるんですよね? だからこそ、敬愛する父上の元で学び、どこへ出しても恥ずかしくない立派な息子となって、父上に認められる、そんな男に私はなるッ!」


「俺が追い出すって言ってんのに、なんで俺から学ぼうとしてんだよ!」


やばいコイツ、言ってること無茶苦茶じゃない?


ああ、あかん!

また頭に血がのぼってきた。キレて殴りそう。


最近歳をとったせいか、やけに怒りっぽくなっている。ルドルフの性格に引っ張られているのかもしれん。


胸の奥底から湧き上がってくるマグマのような熱を、鋼の精神で必死に堪える。


ふうー落ち着け。なるべく冷静な口調で、生まれたてのサルにでも分かるように、伝えるんだ。


「いいかっ、もう一度だけ言うぞ、よく聞けッ! 俺は、無能なお前を、視界に映すのも不快なんだっ! だから、追放する、分かったか!?」


ここまでハッキリ言えば、誰でも理解できるだろう。

ふう、今日はなんだか色々あって疲れたな。

すぐに帰宅してソファーで横になりたい。


宣言通り、飛ぶ鳥跡を濁さず。俺は優雅にこの場から去るとして……


「はい、委細承知いたしました! ならば目に映っても不快にならない有能な男になればいいでしょう? では改めて、日々精進し、尊敬する父上のそばでこれからも学ばせて頂きます!押忍ッ!」

 


「話をきけクソガキゃぁぁぁぁ」


「ふばああ!」


喉元までため込んでいた怒りのマグマが爆発した。渾身の右ストレートがハイネの左頬にクリーンヒットする。


鼻血を吹き上げながら、空中で回転を描き、ハイネが面白いように吹き飛んでいく。


しかし、ハイネは地面に衝突して転がされても、一切の怯む様子もなく、鼻血をたらしながら満面の笑みで華麗に立ち上がってくる。


「ち、てぃてぃうえ! 流石ですッ! 素晴らしい拳ですッ! でもぉっ、私はぁ! 何度殴らても考えを改めるつもりはありませんっ! 心より貴方をお慕いしておりますゆえに!」



「ふっふっ、ふざけんなぁぁぁ!」


支離滅裂な発言を繰り返す愚息。

怒りで頭が焼けきれそうな父親。

果たして間違ってるのはどっちだろうか。


「その考え改めるまで、何発でも鉄拳をくれてやるぞ!」


すると、左右から突然、何者かによって身体を抑えつけられる。


「誰だ!?」


それは、ハイネの兄であるジンと、妹のリアであった。


ジンは目眼を掛けた長身で金髪碧眼のクール系男子。リアもジンと同じ金髪碧眼で、おさげ髪がチャームポイントの可愛いらしい愛娘だ。


「おお~お前達ぃ! 父を助けにきてくれたか!」


何を隠そうこの二人は原作では俺と一緒にハイネを痛めつけた挙句、他領まで攻め入り大戦乱を巻き起こした大悪党!


ならば、無属性で無能になったハイネを追い出すのに一役を買ってくれるはず。


ふふふ、さあ、ゆけ。愛しき我が子供達よ。頭の狂った兄弟を救うのだっ!








「やめてくれ父上! 私は可愛い弟がいじめられてるのを、これ以上見てれられない!」




「そうよっ、リアの大切なお兄ちゃんを殴らないでっ! ハイネお兄ちゃんは……リアと結婚して一生暮らすんだからね! 絶対家から追い出させやしないわ!」








「お、お前らもかぁぁぁぁぁぁ!」






世界平和のために原作を忠実に守りたい俺だったが、子供達の様子がおかしすぎて、最初からシナリオブレイクしている件について。


―――どうしてこうなった?

そして、その原因について考えてみる。


『ああ、そういえば。なるほど・・・・・・』


そう、俺にはこんなあり得ない展開に発展した理由に、大いに心当たりがあったのだった。

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