犬の餌【検索】
その歯応えはやはり好みではない。
喉にくるようなその味は
脳を掻き乱すよな違和感がある。
美味いか不味いかで言えば不味い。
私は汚れた両手で分裂したような
何かを貪り食う。
やはりその歯応えは
有無を言わさず不快である。
しかし呪いのように付き纏う
食という義務が、また頭の中を支配し、
口に入れざるを得ないのだ。
毎朝毎昼毎晩、私は犬の餌を食べている。
そろそろ1週間が経過した頃か、
私は犬のような生活を強いられている。
銀の底が深い皿に盛られた茶色い粒、
その横には同じく皿に水が盛られている。
途轍もなく嫌な気分、というのは通り越した。
その匂いにも慣れ、
私は無我夢中に食べているであろう。
懺悔室のような一室で、
椅子と机のみが置かれている。
ポストを倍にしたような大きさの穴から
机に向かって毎日3回、犬の餌が出てくる。
当初は叫んでいた。
何故、俺が。俺が何をしたって言うんだ。
扉、壁を叩いて必死の抵抗を試みる。
声を荒げ、壁を蹴飛ばす。
しかし反応はない。
そんなことをしているうちに
体力の無駄であると悟ったのだ。
出してくれ、その思いは遠く、
私は虚な表情を浮かべる。
理由以前に、
考えることをやめてしまったのだ。
この1週間ずっとこの体勢で座っている。
そんなことを考えていると
金属の音が聞こえた。
突如その光をみて、私は前のめりに倒れる。
両手で地面をぎゅっと掴み、
取り乱した声を出す。
海象の鳴き声のような、奇怪な鳴き声で。
それ以降もずっとその声で泣き喚く。
何処かからか、
「そりゃ犬も鳴くわ」
と声が聞こえた気がした。
取り乱した、とはこの感覚を言うのだろうか。
「東京、有楽町の通りで
男性が何者かに噛まれ、
四肢の一部を奪われる事件が発生。
犯人は未だ逃走中」
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