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雛形 絢尊

隣人さん、おはこんばんにちわ【検索】






壁を3回叩いた。




理由としては明白で、

こんな夜遅くにこんな音量で。




 

テレビだかなんだか知らないが、 

近所迷惑である。






男が1人で住んでいるらしい。






それでも止まないその音は私の耳を掻い潜る。






疲れているのに、寝付けない。





理由としてはそのためだ。ああもう。


























うるさいよ。






















気のせいかもしれないが

徐々に音量は上がっている。





耳を貫くその音は翌朝になるまで続いていた。





私は無理やり、眠りについた。

言うなれば我慢をして眠ることになった。





この部屋に入居して2週間が経つ頃だ。





入居前に言われた確認事項。
























隣の部屋にノックをしてはいけない。


 


















それはその回数にもよる、

その"回数"という部分に疑問が残る。





一度ではいいのか、

はたまた二度ではダメなのか。





そんなことを考えながら身支度をする。





それにしても昨日の音はうるさかった。





何かを遮断するためなのか?

それともただテレビの音が大きいのか?

なんてことを考えている。





そのことを前提に

この部屋に住むことになったが、

そのノックが関わるので、

近所の挨拶すらもいけていない。





私は角部屋に住んでいるため、

彼のみが隣部屋となる。







思えばどんな人物が住んでおり、

どんな人物が生活を送っているのか

知らなかった。






管理人がすぐ近くに住んでいるので

少し早く家を出て、聞いてみることにした。





朝は大体、玄関前の清掃をしている。





「おはようございます」と声をかけると、





「あ、(匿名)さんおはようございます」





「朝から大変ですね」

竹箒を持った管理人に言う。





「昨日のことなんですけどね、

ちょっと隣がうるさくて」





「ノックしちゃいました」

と冗談めかしく言うと、





「何回、鳴らしたの?」

と引き攣るような声で言う。






「そうですね、数えて無かったんですけど」

「あんたやっちまったね」





「どうしてですか?夜騒ぐ方が悪いですよ」





「そういう問題じゃあないみたい」





「え、なんですか?」






「あんたは犯罪に加担しちまったんだよ」





「そんな、冗談は」





「叩かれたノックの回数だけ人を殺す、

厄介な隣人さんだよ」






「いやいやいや、何言ってるんですか」





「ほれみた、あんたはやっちまったんだよ」





管理人の家から私の部屋の入り口は見える。





管理人の言うとおり、私はその方向を見た。





紺色のコートを着用し、

フードを深くまで被った男、

背丈は190cm程。顔は隠れて見えない。






彼ら背を向け、反対方向へ歩く。





管理人はこそこそと告げた。





「テレビの音量、あれはばらしているんだよ」





「ばらしている?」





「ほら、手とか足とか」





「え、そんな、

そんなわけないじゃないですか」

そんな会話を交えて、私は仕事に出向いた。





夜も更け始め、

私はいつも通り家で過ごしていた。





テレビ・ショーの音で気が付かなかったが、

何かしら音がしている。玄関扉か?










どっ どっ どっ   という音。








吃るようなその音だ。一定間隔で鳴っている。





なんだよ、こんな時間にとは思ったが、

私は何の気なしにその扉を開けてしまった。





男は笑っていた。被ったフードの底から

よく見えるその口角。ぐふふ、と彼は笑う。





あたかも平然と彼は、

「頼まれた六人

バラバラにしときました、ぐふふ」





管理人の台詞が過る。





危険だと感じ、

咄嗟にドアを閉めようとするが、

ぐわあと彼はそれを防いだ。





「まあいくらでも

ノックしてくださいな、ぐふふ」





今ようやく気がついたことがある。





彼の口は裂けていたのだろうか、

口角に合わさるかのように縫った跡がある。





視線で彼にバレてしまった。





「あ、これですか、自分でやったんですよ、

ハサミで。意外と簡単に

切れちゃうもんですね。

是非やってみてくださいよ、

ほら、僕より綺麗に」

と彼は目を開いて言った。





只者じゃない、私は慌てて言った。





「警察呼ぶぞ」と





彼は人が変わったような口調になる。





「警察さん警察さんって、あんた馬鹿かい、馬鹿なのかい。そんなこと言ったら死ぬんだよ

あんた、ハサミだけで殺せるからな、

な、な、な」





その途端、私の手元の近くに

ビニール傘があることに気がついた。





その一瞬の間を探している。





じっと彼の目を見て。





「あんたそんなビニール傘じゃ死ぬよ

あんた本当に」





先を越されていた。





この場を切り抜ける手段、それは何だ。





「殺すかもしれないけど

殺さないかもしれないから、

言うこと聞いてみ、ぐふふ」





先ほどの彼に変貌していた。





すると一歩彼は前に出る。

私は念の為身構える。






何事もなく靴をその場で脱ぎ始めた。






つま先を扉に向け、きっちりと揃えている。

しゃがんで靴を揃えているのだ。






それに関しては私も何も言えず、彼を見ていた。






彼はポケットから

何かを取り出そうとしている。






「見て見て」

彼はスマートフォンを取り出した。






恐る恐る彼に近づいていく。

何かの写真だ。







衝撃のあまり言葉にならなかった。







画面に映っているのは花瓶、

それと切り落とされた人の足だ。

花のように飾られている。

足の裏が天を向いており、

一つ一つの指が花弁のようだ。






「趣味は盆栽って、がはは」

と彼は笑い続ける。





この男正気じゃない。





「このポケット、何でも入るから

鞄代わりにしてるんだよね」





と彼は再び何かを取り出す。





「ちゃんと洗っているから」





と右の手のひらには人の目玉らしきもの

が転がっている。その数は2つだ。





「新鮮だぜ、ぐふふ。

あ、もしかしてそういう趣味じゃない系?」






私は目を後ろにそらす、人の目玉の球体を

見ることなんてない。

いや、なくて当たり前なのだ。






「ああ、ホラー好きでも

ムカデ人間はダメ系か」





「どうしてこんなことができるんだよ」






「仕事だよ、仕事。いくらサバゲーが好きでも本職を漁師に選ぶ奴はあんまりいないだろ?

俺も殺しが嫌いだ」





彼は大体何かを付け足して話す。





そんなわけないと私は脳で思った。






「あんたからの誘いを待ってたんだよ」

と彼は言った。





「どういうことだ?」






「隣人に願掛けをするんだ、

嫌がらせをして殺しを勧誘する」






「俺は殺しなんかしないぞ」






「だから俺はお前のノックの音を数えた。

これは殺人補助だ」






「何言ってるんだ」





これは理屈が通じないと思った。





「日本語!!日本語喋ってるんだけど。

単語、分かる?単語」





彼は再び目を開く。人をコケにするように。






「まあ、とにかく、

あんたのノックを待っているよ。


























どんっ  どんっ  どんっ 












ってさ。















俺はあと1人、締めなきゃいけないから、

またね」





彼は駆け出すようにして帰った。





私は開放感と絶望感に満ちたため息を吐く。






その時、隣の部屋から弱った男の

最後の抵抗が聞こえた。
















ごとっ












何か音がした。硬く重たい音だ。





私は呆然と玄関のドアを見ていた。






見つめていた。






背後からその音がした。






きっと、物が倒れた、

そういったことだと思っていた。






あたりを見渡すも何もそれらしきものはない。















ベランダだ。















ベランダのカーテンを勢いよく開けると、

見ず知らずの男の生首が落ちていた。





断面は赤黒く、血も少し滴る。






カーテンを勢いよく締めた。






私は胃液をそのままその場に吐き出した。


















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